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・・・畝道に古い長靴を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀にかぶって塵埃を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、あなたお役所が遅くなりますなどと春眠いぎたなき主人を揺り起こす軍人の細君・・・
田山花袋
「少女病」
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・・・ それはそれは眠くて春眠暁を覚えずという文句を、実に身を以て経験中です。バカらしく眠いが、これは何か必要があるのであろうと思い、ゲンコを握ってグースーです。グースーと云えば、今度の稿料で私は自分のためには、辛うじてベッドを一つ買うことが出来・・・
宮本百合子
「獄中への手紙」