・・・その自己批判の焦点が発展的に移って来ている過程までわかる。 ファシスト、ブルジョアジー、官僚・軍閥、懶けて飲んだくれな非階級的労働者、官僚主義で形式主義で能なしの党員、社会ファシストとなった民主主義者などは、ソヴェト同盟の或る種の芸術の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・―― 三 メーデーの後、自分に対する襲撃の焦点が急に変って来た。もう「コップ」のことは問題でなく、今は党へ金を出している、それを云えというのである。自分にそのような事実はない。 中川は、「だァって、受取・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 詩の事につき、又他の書くものにつきゆうべも話したが、私たちはまだ縦横自在ではないことを痛感し、もっとオク面なくなって、しかも正当な焦点をもつようになりたいと頻りに話したことです。小説を書くについても新しい現実の内容が豊富複雑錯雑して居・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・国内の情勢をはかる場合、プロレタリアートの先進部隊としての役割が改めて重大関心の焦点となった。 民主主義文学運動が、その本来の性質にふくんでいる人民としての政治的要素、階級文学としての政治性は、ここにおいて一九四八年末から一九四九年にか・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・従って作品の実際に当っては、最も手近なかつ日常的な恋愛の推移の過程を、些かは感傷ぬきに雄々しく描こうとする努力、又は俗世間の利害の焦点の推移によって権力も推移する浮世の姿を描くという試みの限度に置かれたのであるが、この能動精神の主観的理解に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・其故、内容を深く知らない人達はこちらの職業婦人と申しましても、概して工場事務所、商店等に働く婦人が、外面的の労働時間と衛生規則は完全であっても、その物質慾に刺戟されて如何に惨憺たる生活を営んで居るかと云うことも御分りになりますでしょう。流行・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ ずらりと並んだ商店の飾窓から二三尺の距離を保って、森の中でも散歩するような暢やかさで、眺め眺め進む。 余り奇麗な布地でもあると、私は呉服屋の前に立った。 異国風な豊麗さで細々化粧品や装身具などを飾った窓に来かかると、私は、堪能・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・へ行って油田を見せて貰えるつもりでいたところが、生憎その日はペルシアの日曜日――何かの宗教的祝日で、大通りの商店、事務所、すっかり表戸をおろしているのであった。 仕方がないから、自分たちは目抜の通りへ出て地図を買い、通行人に交って街をぶ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・賑やかで、ごたついた東洋的な夜の光景の中で、この外国人の素気ない小店は、異様に印象に遺った。 私には、夕方見かけるロシア婦人とこの男が全然無関係とは思えなかった。彼もロシア人とはっきり感じた。妙に深く、暗く、際限のないような彼の雰囲気が・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・ルで精彩にとんだ描写とくどくどしく抽象的な説明との作者に自覚されていない混同、比喩などにはっきり現われている著しい古典趣味、宗教臭と近代科学との蕪雑なせり合い、現実的な観察が次第に架空的誇大的な類型へ昇天する奇怪な道ゆきが生じたのであったろ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫