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・・・ 眺めていると、きよらかな海際の社頭の松風のあいだに、どこやら微かに人声も聴えて来るという思いがする。物蔭の小高いところから、そちらを見下すと、そこには隈なく陽が照るなかに、優美な装束の人たちが、恭々しいうちにも賑やかでうちとけた供まわ・・・
宮本百合子
「あられ笹」
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東京の郊外で夏を送っていると、時々松風の音をなつかしく思い起こすことがある。近所にも松の木がないわけではないが、しかし皆小さい庭木で、松籟の爽やかな響きを伝えるような亭々たる大樹は、まずないと言ってよい。それに代わるものは欅の大樹で、・・・
和辻哲郎
「松風の音」