・・・ それにしても神保町の夜の露店の照明の下に背を並べている円本などを見る感じはまずバナナや靴下のはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはない。むしろバナナのほうは景気がいいが、書物のほうはさびしい。「二人行脚」の著者故日下部四郎太博・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・『たけくらべ』第十回の一節はわたくしの所感を証明するに足りるであろう。春は桜の賑ひよりかけて、なき玉菊が燈籠の頃、つづいて秋の新仁和賀には十分間に車の飛ぶことこの通りのみにて七十五輌と数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて、赤蜻蛉田圃・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・と津田君は先刻の書物を机の上から取り卸しながら「近頃じゃ、有り得ると云う事だけは証明されそうだよ」と落ちつき払って答える。法学士の知らぬ間に心理学者の方では幽霊を再興しているなと思うと幽霊もいよいよ馬鹿に出来なくなる。知らぬ事には口が出せぬ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・星黒き夜、壁上を歩む哨兵の隙を見て、逃れ出ずる囚人の、逆しまに落す松明の影より闇に消ゆるときも塔上の鐘を鳴らす。心傲れる市民の、君の政非なりとて蟻のごとく塔下に押し寄せて犇めき騒ぐときもまた塔上の鐘を鳴らす。塔上の鐘は事あれば必ず鳴らす。あ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・かかる理念によって現実の歴史的課題の解決の不可能なることは、今日の世界大戦が証明して居るのである。いずれの国家民族も、それぞれの歴史的地盤に成立し、それぞれの世界史的使命を有するのであり、そこに各国家民族が各自の歴史的生命を有するのである。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ただ事実が証明してるじゃないか。 ――よろしい。あらかじめ無事に収まる地震の分ってる奴等が、慌てて逃げ出す必要があって、生命が危険だと案じる俺達が、密閉されてる必要の、そのわけを聞こうじゃないか。 ――誰が遁げ出したんだ。 ――・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ダボハゼに似ているので、関東方面でもドンコを見たという人があるけれども、学問的にもいないことが証明されている。 魚の辞典を引いてみると、ドンコはドンコ属という独立した一科になっている。辞書や伝承によって、鈍甲、胴甲、貪魚、鈍魚、などとい・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・本年春の頃或る米国の貴婦人が我国に来遊して日本の習俗を見聞する中に、妻妾同居云々の談を聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・故に其子の男女長少に論なく、一様に之を愛して仮初にも偏頗なきは、父母の本心、真実正銘の親心なるに、然るに茲に女子の行末を案じて不安心の節あるやなしやと問えば、唯大不安心と言うの外なし。娘を人の家に嫁せしめて舅姑の機嫌に心配あり、兄公女公親類・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・しかしそれがかえってこう云う状態の存在を証明しているように思われた。 すべて女の手紙を読むには、行の間を読まなくてはならない。眼光紙背に徹せなくてはならない。ピエエル・オオビュルナンは得意の作の中にこう書いた事がある。「女の手紙の意味は・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫