・・・ 益軒の時代は、さっき触れたような商人擡頭の時代であって、歌舞、音曲、芝居なども流行をきわめ、上方あたりの成金の妻女は、あらゆる贅沢と放埒にふけった例もあった。西鶴の小説が語っているような有様であったから、近松の浄瑠璃が描き出しているよ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・出版に対する検閲は猛烈にやかましくて、何万種類出版物がふえようとも、それらの内容は全く、情報局編輯であるという点では、ただ一冊の本に過ぎないと同じであった。昭和二十年八月まで、日本の中には安心して口をきける場所というものがほとんどなかった。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・彼は素姓のあまりはっきりしない男であるが、応仁の乱のまだ収まらないころであったか、あるいは乱後であったかに、上方から一介の浪人として、今川氏のところへ流れて来ていた。ちょうどそのころに今川氏に内訌が起こり、外からの干渉をも受けそうになってい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫