・・・「でも、基本的人権というのは、……」 と、誰かが言いかけると、「え?」 とすぐに出しゃばり、「それは、どんなんです? やはり、アメリカのものなんですか? いつ、配給になるんです?」 人絹と間違っているらしいのだ。あま・・・ 太宰治 「眉山」
・・・ と、誰かが言いかけると、「え?」 とすぐに出しゃばり、「それは、どんなんです? やはり、アメリカのものなんですか? いつ、配給になるんです?」 人絹と間違っているらしいのだ。あまりひどすぎて一座みな興が覚め、誰も笑わず・・・ 太宰治 「眉山」
・・・「人権」なる言葉を思い出す。ここの患者すべて、人の資格はがれ落されている。 われら生き伸びてゆくには、二つの途のみ。脱走、足袋はだしのまま、雨中、追われつつ、一汁一菜、半畳の居室与えられ、犬馬の労、誓言して、巷の塵の底に沈む・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・軍刀の紫の袋には、真赤な太い人絹の紐がぐるぐる巻きつけられ、そうして、その紐の端には御ていねいに大きい総などが附けられてある。「先生には、まだ色気があるんですね。恥かしかったですか?」「すこし、恥かしかった。」「そんなに見栄坊で・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・外見ばかりを安物で飾っている現代の建築物や、人絹の美服などとその趣を同じくしているが故である。わたくしはまた紙でつくった花環に銀紙の糸を下げたり、張子の鳩をとまらせたりしているのを見るごとに、わたくしは死んでもあんな無細工なものは欲しくない・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・兵馬匆卒の際、言論も自由なれば、思うがままに筆を揮うてはばかるところなく、有形の物については物理原則のあざむくべからざるを説き、無形の事に関しては人権の重きを論じ、ことに独立の品行、自尊自重の旨を勧告してその著書も少なからず、これがために当・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・けれども、いまやっと、人間の基本的人権の確立がいわれるようになったとき、日本の知識階級の若い女性たちは、自分たちめいめいの運命の開花の問題として民主主義社会建設の課題を、どのように真剣にとりあげはじめているであろうか。自分の才能の達成と、愛・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・つまり、人権剥奪の最もはげしい形である戦争への召集のために、個々の存在抹殺としての身分平等化が行われたわけであった。朝鮮の人々の日本名への改姓が強制されたと同じに――。しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・世界民主主義婦人連盟、反ファシスト同盟、人権擁護同盟そのほかに属している婦人たちの数も少くない。これらの婦人たちが切実に要求しているのは平和であり、民主的であってゆたかな生活の安定であった。その事実を選挙によって表現し、政策をその方向に動か・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・日本のわたしたちは、憲法の抽象的な人権擁護の文句を、実質のあるものにしてゆこうと、計画的に努力していないでしょうか。「日本人ほど抽象的な議論の好きな国民はない」という言葉に筆者は同感されています。それは一部には当っております。たとえば、・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
出典:青空文庫