・・・ 午前の人定尋問の時、立って「この公判は重大であるから公判の検事ならびに裁判長以下裁判官の名前をわからして頂きたい」と発言して、布施弁護士によってその要求を具体化した被告飯田七三、もと三鷹電車区検査係、同分会執行委員長は、午後の法廷でさ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・日本の歴史を見て、深い驚きにうたれることは、ヨーロッパにおいて人文復興のルネッサンスが起り、近代に向う豊富な社会生活と文化とが発生しはじめた丁度その頃に、徳川の完全な鎖国政策がはじまったことである。ヨーロッパが、まだ蒙昧な、半ば野蛮時代の生・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・科学といっても人文社会に関する科学の業績は、自然科学よりずっと日常にとりいれられ、わかるものとなっている。 今日私を悲しく思わせる、このような自然科学の蒙昧性を考えると、女学校時代の化学教室の雰囲気が思い出に甦って来る。化学教室には厚板・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
・・・ 同心らが三道具を突き立てて、いかめしく警固している庭に、拷問に用いる、あらゆる道具が並べられた。そこへ桂屋太郎兵衛の女房と五人の子供とを連れて、町年寄五人が来た。 尋問は女房から始められた。しかし名を問われ、年を問われた時に、かつ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫