・・・という名をつけている。正式にはドンギョあんであるが、ドンコあんと読まれてもさしつかえないことにしている。 ドンコはいくら下手でも、女子供でも、年よりでも釣れる。それはいくら釣りそこなっても、とにかく釣りあげられるまではエサに食いつくから・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・譬えば封建の時代に武家は百姓町人を斬棄てると言いながら実際に斬棄てたる者なきが如く、正式に名を存するのみにして習慣の許さゞる所なり。但し天地は広し、真実の父母が銭の為めに娘を売る者さえある世の中ならば、所謂親の威光を以て娘の嫁入を強うる者も・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ けれども日本の一九三七年はメーデーを正式に禁止し、蘆溝橋事件をきっかけに中国への侵略戦争が拡大されつつあった。日独伊防共協定が調印されて、国民精神総動員中央連盟が結成された。ブェノスアイレスの第十四回国際ペンクラブ大会へ出席した島崎藤・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ね、首輪がついて居ないから正式に何処の飼犬でもなかったのよ。ね、丁度みかん箱も一つあるから。」 良人は、「どれ」と仔犬を抱きあげ、北向の三坪ばかりの空地につれて行った。私も後をついて出た。 地面におろすと、仔犬は・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・は大胆に拡げ、ラップによって指導されている工場の文学研究会員も、ラップの正式な資格ある加盟員とした。 工場内の文学研究会指導の任務は、五ヵ年計画第三年目当初において、従来に倍する重要な意味をもって、プロレタリア作家の前に現れたのである。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・経歴書を出すということは、正式に組織上の手続きをするという意味であろう。「それは、わたしとしては当然なことだけれど……」 ひろ子には、今、直ぐ、ここで、という用意がなかった。二つの仕事が両側から一時に迫って感じられた。文学の仕事と、・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・允子が自分の姙娠を知って正式の結婚を求めるが公荘は、允子には話さなかった病妻が在り、堕胎をせまる。允子はそれを強く拒絶する。「国法を犯すことがこわいというより、胎内に芽んだものを枯らしてしまうことが恐しいのだ。」「どうにか育てられるものなら・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ゴーリキイはこの旅行に正式に結婚していなかった妻を同伴したところ、アメリカの清教徒婦人の間からそのことで、講演開催に反対する運動がはじめられたのであった。 これらの活動でゴーリキイの肺病が悪化した。この旅行の帰途ゴーリキイは政治的移民と・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ 与力の座を立ったあとへ、城代太田備中守資晴がたずねて来た。正式の見回りではなく、私の用事があって来たのである。太田の用事が済むと、佐佐はただ今かようかようの事があったと告げて自分の考えを述べ、さしずを請うた。 太田は別に思案もない・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・F君は女学生と秘密に好い中になっていたが、とうとう人に隠されぬ状況になったので、正式に結婚しようとした。それを四国の親元で承引しない。そこで親達を説き勧めにF君が安国寺さんを遣ったと云うのである。 私はそれを聞いて、「安国寺さんを縁談の・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫