・・・また我が党の士、幽窓の下におりて、秋夜月光に講究すること、旧日に異なることなきを得て、修心開知の道を楽しみ、私に済世の一斑を達するは、あにまた天与の自由を得るものといわざるべけんや。 然ばすなわち我が輩の所業、その形は世情と相反するに似・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・ああ、僕まるで息がせいせいする。きっと今度の風だ。ひばりさん、さよなら」「僕も、ひばりさん、さよなら」「じゃ、さよなら、お大事においでなさい」 奇麗なすきとおった風がやって参りました。まず向こうのポプラをひるがえし、青の燕麦に波・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・ 晩方象は小屋に居て、八把の藁をたべながら、西の四日の月を見て「ああ、せいせいした。サンタマリア」と斯うひとりごとしたそうだ。 その次の日だ、「済まないが、税金が五倍になった、今日は少うし鍛冶場へ行って、炭火を吹いてくれない・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・と思ったら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、却って、「ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」というききおぼえのある声が、ジョバンニの隣りにしました。見ると鳥捕りは、もうそこでとって来た・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「あいつが死んだらほんとうにせいせいするだろうね。」というような声ばかりです。 捕り手のねずみは、いよいよ白いたすきをかけて、暗殺のしたくをはじめました。 その時みんなのうしろの方で、フウフウと言うひどい音が聞こえ、二つの目玉が・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・そのうちに蜘蛛は腐敗して雨で流れてしまいましたので、なめくじも少しせいせいしました。 次の年ある日雨蛙がなめくじの立派なおうちへやって参りました。 そして、「なめくじさん。こんにちは。少し水を呑ませませんか。」と云いました。・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・嘉吉はすぐ川下に見える鉱山の方を見た。鉱山も今日はひっそりして鉄索もうごいていず青ぞらにうすくけむっていた。嘉吉はせいせいしてそれでもまだどこかに溶けない熱いかたまりがあるように思いながら小屋へ帰って来た。嘉吉は鉱山の坑木の係りではもう頭株・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・それから、やっとせいせいしたというようにぐっすりねむりました。 次の晩もゴーシュがまた黒いセロの包みをかついで帰ってきました。そして水をごくごくのむとそっくりゆうべのとおりぐんぐんセロを弾きはじめました。十二時は間もなく過ぎ一時もすぎ二・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・わたくしはあれですっかりかたが着いたと思ってせいせいして働いていたのであります。」「それも証拠にはならん。おい、君、白っぱくれるのもいい加減にしたまえ。テーモ氏から捜索願が出ているのだ。いま君がありかを云えば内分で済むのだ。でなけぁ、き・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
大地は大変旧いものだ。けれども同時に刻々生成をやすめない恒に新鮮なものでもある。 私たちの生活に、社会について自然についていろいろと科学的な成果がゆたかに齎らされるにつれて、旧き大地の新しさや、そこの上に生じてゆく社会・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
出典:青空文庫