・・・しかしよくしたもので、男性は女性を圧迫するように見えても、だんだんと女性を尊敬するようになり、そのいうことをきくようになり、結局は女性に内側から征服されていく。社会の進歩というものは、ある意味で、この男性が女性の霊の力に征服されてきた歴史な・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
一、反戦文学の階級性 一 戦争には、いろ/\な種類がある。侵略的征服的戦争がある。防禦戦がある。又、民族解放戦争、革命も、そこにはある。 戦争反対の文学は、かなり昔から存在して居るが、ブル・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・しかったと見えて、野州上州の山地や温泉地に一日二日あるいは三日五日と、それこそ白雲の風に漂い、秋葉の空に飄るが如くに、ぶらりぶらりとした身の中に、もだもだする心を抱きながら、毛繻子の大洋傘に色の褪せた制服、丈夫一点張りのボックスの靴という扮・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・ それは西暦千八百六十五年の七月の十三日の午前五時半にツェルマットという処から出発して、名高いアルプスのマッターホルンを世界始まって以来最初に征服致しましょうと心ざし、その翌十四日の夜明前から骨を折って、そうして午後一時四十分に頂上・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・太郎はすでに中学の制服を着る年ごろであったから、すこし遠くても電車で私の母校のほうへ通わせ、次郎と末子の二人を愛宕下の学校まで毎日歩いて通わせた。そのころの私は二階の部屋に陣取って、階下を子供らと婆やにあてがった。 しばらくするうちに、・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・を求めるつもりで国を出てきたおげんはその養生園の一室に、白い制服を着た看護婦などの廊下を往来する音の聞えるところに、年老いた自分を見つけるさえ夢のようであった。病室は長い廊下を前にして他の患者の居る方へ続いている。窓も一つある。あのお新を相・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・何らかの威力が迫って来て、私のこの知識を征服してくれたら、私は始めて信じ得るの幸福に入るであろう。 されば現下の私は一定の人生観論を立てるに堪えない。今はむしろ疑惑不定のありのままを懺悔するに適している。そこまでが真実であって、その先は・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・自己の中に、アルプスの嶮にまさる難所があって、それを征服するのに懸命です。僕たちは、それを為しとげた人を個人英雄という言葉で呼んで、ナポレオンよりも尊敬して居ります。」 来た。待っていたものが来た。新しい、全く新しい次のジェネレーション・・・ 太宰治 「花燭」
・・・まず、あいつを完全に征服し、あいつを遠慮深くて従順で質素で小食の女に変化させ、しかるのちにまた行進を続行する。いまのままだと、とにかく金がかかって、行進の続行が不可能だ。 勝負の秘訣。敵をして近づかしむべからず、敵に近づくべし。 彼・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・そんな事で憤慨して、制服をたたき売るなんて、意味ないよ。ヒステリズムだ。どうにも仕様がないものだから、川へ飛びこんで泳ぎまわったりして、センチメンタルみたいじゃないか。」「傍観者は、なんとでも言えるさ。僕には、出来ない。君は、嘘つきだ。・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫