・・・その後日英同盟の意識で占領された時代もあります。かく推論の結果心理学者の解剖を拡張して集合の意識やまた長時間の意識の上に応用して考えてみますと、人間活力の発展の経路たる開化というものの動くラインもまた波動を描いて弧線を幾個も幾個も繋ぎ合せて・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・必要の度の高い英語のごときは比較的多くの時間を占領している。批評の条項についても諸人の合意でこれらの高下を定める事ができるかも知れぬ。崇高感を第一位に置くもよい。純美感を第一にするもよい。あるいは人間の機微に触れた内部の消息を伝えた作品を第・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ こうして平壌は占領され、原田重吉は金鵄勲章をもらったのである。下 戦争がすんでから、重吉は故郷に帰った。だが軍隊生活の土産として、酒と女の味を知った彼は、田舎の味気ない土いじりに、もはや満足することが出来なかった。次第・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・邪魔だよ、何時までも一人で、其処を占領しているのは。御覧、皆さんが彼様に立って居らッしゃるじゃないか。』 其女の方の後には、幾個かの人の垣を為た様に取巻いて、何人も呆れてお居での様でした。『彼の女は僕の云う様な事を云っている。』・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・地獄では我々が古参だから頭下げて来るなら地獄の案内教えてやらないものでもないが、生意気に広い墓地を占領して、死んで後までも華族風を吹かすのは気にくわないヨ。元来墓地には制限を置かねばならぬというのが我輩の持論だが、今日のように人口が繁殖して・・・ 正岡子規 「墓」
・・・残った二、三羽の小鳥は一番いのチャボにかえられて、真白なチャボは黄なカナリヤにかわって、彼の籠を占領して居る。しかるに残酷なる病の神は、それさえも憎むと見えて、朝々一番鶏二番鶏とうたい出す彼の声は、夜もねられずに病牀に煩悶して居る予の頭をい・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・それはまるで赤や緑や青や様々の火がはげしく戦争をして、地雷火をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血が流れたり、そうかと思うと水色の焔が玉の全体をパッと占領して、今度はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇やほたる・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴のもも立ちを取り、とんとんとんと土手の方へ走りましたが、ちょっとかがんで土手のかげから、千両ばこを一つ持って参りました。 ははあ、こいつはきっと泥棒だ、・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・ ところが、さまざまの委員会が、民主化のための委員会として組織された当時、吉田茂は、占領政策に対して危惧をいだいていた。その後、日本の民主化にいろいろの変調が加えられて、たとえば用紙割当委員会の権限が、ずるずると内閣に属す委員会に移され・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・あらゆる芸術の分野でごく少数の卓抜な選良たちは常に主観と客観とを二つのものに分けて扱う習俗を跨ぎこして、真実の核心に迫って行っている。主観的な時代には特にそのことの価値が考えられるのである。〔一九四一年五月〕・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
出典:青空文庫