・・・なんでも相生の代わりに相剋、協和の代わりに争闘で行かなければうそだというように教えられるのであるらしい。その理論がまだ自分にはよくわからない。 三つの音が協和して一つの和弦を構成するということは、三つの音がそれぞれ互いに著しく異なる特徴・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにその国の行政機関を運転させるには、ただその為政者たるものが誠意誠心で報国の念に燃えているというだけでは充分でないらしく思われる。いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ こういうふうに考えて来ると、ある一人が創成した新型式をその創成者自身が唯一絶対のものであるかのごとく固執しているのに対する、局外者の批判の態度のおのずから定まって来るであろうと思われる。 新型式中でも最も思い切った新型式としては、・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・延びるにしたがって茎の周囲に簇生した葉は上下左右に奇妙な運動をしている。それはあたかも自意識のある動物が、われわれには不可知なある感情を表わすためにもがいているようにも思われ、あるいはまた充実した生命の歓喜におどっているようにも思われた。や・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・頂上を見ると黄色がかった小さい花が簇生しているが、それはきわめて謙遜な、有るか無きかのものである。いったい自然はどうしていつもの習慣にそむいてこの植物の生殖器をこんなに見すぼらしくして、そのかわりに呼吸同化の機関たる葉をこれほどまでに飾った・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・一つにはこれらの画家が子規と特別な親交があって、そうしてこの病友を慰めてやりたいという友情が籠っていたであろうし、また一つには当時他に類のなかったオリジナルでフレッシな雑誌の体裁を創成するということに対する純粋な芸術的な興味も多分に加わって・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・身が暗示するように、たとえば日本の生花の芸術やまた造庭の芸術でも、やはりいろいろのものを取り合わせ、付け合わせ、モンタージュを行なって、そうしてそこに新しい世界を創造するのであって、その芸術の技法には相生相剋の配合も、テーゼ、アンチテーゼの・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・おそらくこれらの所説も、全部がロイキッポスやデモクリトスなどが創成したものではなくて、もっともっと古い昔からおぼろげな形で伝わり進化したものに根を引いているのであろうと想像される。しかしこれら哲学者の植え付けた種子が長い中世の冬眠期の後に、・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・この人の長子は早世し、次男の Joseph Halden Struttが家を継いだ。彼は陸軍大佐となり王党の国会議員となり、Duke of Leinster の娘の Lady Fitzgerald と結婚した。これがここに紹介しようとする物・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・男子が如何に戸外に経営して如何に成功するも、内を司どる婦人が暗愚無智なれば家は常に紊乱して家を成さず、幸に其主人が之を弥縫して大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末、一朝にして大家の滅亡を告・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫