・・・ かくて智恵と力をはらんで身の重きを感じたツァラツストラのように、張り切った日蓮は、ついに建長五年四月二十八日、清澄山頂の旭の森で、東海の太陽がもちいの如くに揺り出るのを見たせつなに、南無妙法蓮華経と高らかに唱題して、彼の体得した真理を・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・昼は短く、夜は長かった。太陽は、一度もにこにこした顔を見せなかった。松木は、これで二度目の冬を西伯利亜で過しているのであった。彼は疲れて憂欝になっていた。太陽が、地球を見棄ててどっかへとんで行っているような気がした。こんな状態がいつまでもつ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 九 雪の曠野は、大洋のようにはてしがなかった。 山が雪に包まれて遠くに存在している。しかし、行っても行っても、その山は同じ大きさで、同じ位置に据っていた。少しも近くはならないように見えた。人家もなかった。番・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・地球も自転しながら進むのだからつまり空間に螺旋しているのだよ。太陽も自転している以上はたしかに螺旋して進んでいるのだよ。月も螺転しているのサ。星もその通りサ。螺旋螺転なんというのは好い新熟字だろう。人間のつむじを見ればこれも螺旋法で毛が出る・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ これは、太陽の運命である。地球およびすべての遊星の運命である。まして地球に生息する一切の有機体をや。細は細菌より、大は大象にいたるまでの運命である。これは、天文・地質・生物の諸科学が、われらにおしえるところである。われら人間が、ひとり・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・遠慮のない大陸的なヤケに熱い太陽で、その辺から今にもポッポッと火が出そうに思われた。それで、その高地を崩していた土方は、まるで熱いお湯から飛びだしてきたように汗まみれになり、フラフラになっていた。皆の眼はのぼせて、トロンとして、腐った鰊のよ・・・ 小林多喜二 「人を殺す犬」
・・・あのボオドレエルの詩の中にあるような赤熱の色に燃えてしかも凍り果てるという太陽は、必ずしも北極の果を想像しない迄も、巴里の町を歩いて居てよく見らるるものであった。枯々としたマロニエの並木の間に冬が来ても青々として枯れずに居る草地の眺めばかり・・・ 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・その理は十二宮は太陽運行に基き、二十八宿は太陰の運行に基きしものなれば、陽の初なる東とその極なる南とを十二宮に、陰の初の西とその極の北とを二十八宿の星座に據らしめしものと見らるればなり。 されば堯典記載の天文が、今日の科學的進歩の結果と・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・「ママ今日私は村に行って太陽が見たい、ここは暗いんですもの」 とその小さな子が申しました。「昼過ぎになったら、太陽を拝みにつれて行ってあげますからね」 そう言えばここは、この島の海岸の高いがけの間にあって暗い所でした。おまけ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・が、その働きをぴたりと止めて、急に淋しくおそろしいように成った時、宏い宏い、心に喰い入るような空の下には、唯、物を云わない自然と、こそりともせず坐っている唖の娘とがいるばかりでした――自然は、燦き渡る太陽の光の下に、スバーは、一本の小さい樹・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫