・・・り、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹の怒、鳩の愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青葉したたり、いずかたよりぞレモンの香、やさしき人のみ住むという、太陽の国、果樹の園、あこがれ求めて、梶は・・・ 太宰治 「喝采」
・・・海鯨の住む大洋。木に棲み穴にいて生れながらに色の黒いくろんぼうの国。長人国。小人国。昼のない国。夜のない国。さては、百万の大軍がいま戦争さいちゅうの曠野。戦船百八十隻がたがいに砲火をまじえている海峡。シロオテは、日の没するまで語りつづけたの・・・ 太宰治 「地球図」
・・・遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それを予言した。それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果から・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・測られぬ風の力で底無き大洋をあおって地軸と戦う浜の嵐には、人間の弱い事、小さな事が名残もなく露われて、人の心は幽冥の境へ引寄せられ、こんな物も見るのだろうと思うた。 嵐は雨を添えて刻一刻につのる。波音は次第に近くなる。 室へ帰る時、・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・たとえば地球が全部大洋かあるいは陸地におおわれていたらこういう原因から起こる一日じゅうの弛張が純粋に現われるかもしれないが、日本の沿岸のような所では地方的な海陸風に相当するものが、各季節を通じてあまりに著しく発達して、上のような地球に関する・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・は、先ず大要以上のごときもののようである。 また一方、研究者の内面生活の方面から見た「自由」はどうかと見ると、これは全く個人個人の問題で、一概に云われないようである。ちょっと外側から見ると恐ろしく窮屈そうに見えるような天地に居て、そうし・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・色々のイズムはどんな大洋を越えてでも自由に渡って来るのである。 市が拡張されて東京は再び三百年前の姿に後戻りをした。東京市何区何町の真中に尾花が戦ぎ百舌が鳴き、狐や狸が散歩する事になったのは愉快である。これで札幌の町の十何条二十何丁の長・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・これは月と太陽との引力のために起るもので、月や太陽が絶えず東から西へ廻るにつれて地球上の海面の高く膨れた満潮の部分と低くなった干潮の部分もまた大体において東から西へ向かって大洋の上を進んで行きます。このような潮の波が内海のようなところへ入っ・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・鳥はここが果てもない大洋のまん中だとは夢にも知らないのだろう。 飛び魚がたくさん飛ぶ、油のようなうねりの上に潮のしずくを引きながら。そして再び波にくぐるとそこから細かい波紋が起こってそれが大きなうねりの上をゆるやかに広がって行く。 ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・とある度までよく一致しているから面白い。 また河水が流れ込んでも海が溢れない訳を説明する華厳経の文句がある。大海有四熾燃光明大宝。其性極熱。常能飲縮。百川所流無量大水。故大海無有増減。とある。大洋特に赤道下の大洋における蒸発作用の旺盛な・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫