・・・ これを見た燕はどんなけっこうなものをもらったよりもうれしく思って、心も軽く羽根も軽く王子のもとに立ちもどってお肩の上にちょんとすわり、「ごらんなさい王子様。あの二人の喜びはどうです。おどらないばかりじゃありませんか。ごらんなさい泣・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・猫柳の枝なぞに、ちょんと留まって澄ましている。人の跫音がするとね、ひっそりと、飛んで隠れるんです……この土手の名物だよ。……劫の経た奴は鳴くとさ」「なんだか化けそうだね」「いずれ怪性のものです。ちょいと気味の悪いものだよ」 で、・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・馬に乗った勢で、小庭を縁側へ飛上って、ちょん、ちょん、ちょんちょんと、雀あるきに扉を抜けて台所へ入って、お竈の前を廻るかと思うと、上の引窓へパッと飛ぶ。「些と自分でもお働き、虫を取るんだよ。」 何も、肯分けるのでもあるまいが、言の下・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・何、黒山の中の赤帽で、そこに腕組をしつつ、うしろ向きに凭掛っていたが、宗吉が顔を出したのを、茶色のちょんぼり髯を生した小白い横顔で、じろりと撓めると、「上りは停電……下りは故障です。」 と、人の顔さえ見れば、返事はこう言うものと極め・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・……かるめら焼のお婆さんは、小さな店に鍋一つ、七つ五つ、孫の数ほど、ちょんぼりと並べて寂しい。 茶めし餡掛、一品料理、一番高い中空の赤行燈は、牛鍋の看板で、一山三銭二銭に鬻ぐ。蜜柑、林檎の水菓子屋が負けじと立てた高張も、人の目に着く手術・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・と蓮葉に言って、赤い斑点の出来た私の手の甲をぎゅっと抓ると、チャラチャラと二階の段梯子を上って行ったが、やがて、「――ちょんの間の衣替え……」と歌うように言って降りて来たのを見ると、真赤な色のサテン地の寝巻ともピジャマともドイスともつか・・・ 織田作之助 「世相」
みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそとして、見合いに出掛けたといって嗤ったけれど、そんなことはない。いそいそなんぞ私はしやしなかった。といって、そんな時私たちの年頃の・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・道理で、此頃、熊と伊三郎がちょん/\やっとると思いよった。くそッ!」 敷地にはずれた連中は、ぐゎい/\騒ぎ出した。敷地に這入るか、這入らないかは、彼等の家がつぶれるか、つぶれないかに関係していた。真剣に、目を血ばしらすのは当然だった。・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 豪胆で殺伐なことが好きで、よく銃剣を振るって、露西亜人を斬りつけ、相手がない時には、野にさまよっている牛や豚を突き殺して、面白がっていた、鼻の下に、ちょんびり髭を置いている屋島という男があった。「こういうこた、内地へ帰っちゃとても・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・そして、最初箸の先にちょんびり肴を挾んで左手の掌にそれを置いて口にもってゆくとき、龍介をちょっとぬすみ見て、身体を少しくねらし、顔をわきにむけて、食べた。彼はすぐまた酒をついでやった。女はまたさかなを食った。章魚の方にも箸をつけた。腹が減っ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
出典:青空文庫