・・・経済事情の悪化は、原因として日常のこまかいものにまで及ぼしている増税、それに伴う物価の騰貴が直接のきっかけとなっており、増税のよって来るところの同じ源から、誰の胸に問うても明らかな思想的な一方的傾向の重圧がある。社会の事情は昨今まことに複雑・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・経済的に、軍需工業関係者以外の一般人は、物価騰貴のため急速に貧困化している。文化的の面にもその貧困は響いて来ていると同時に、大衆の文化的内容そのものの質が、「依らしむべし。知らしむべからず」的事情の下に貧困化し低下しつつある。大衆の多くを語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・晩秋に芳しいさんまを、豆にかえて、戦場の人々を偲びながら子供らに食べさせる物価騰貴時代の主婦の耳に、酒、タバコ、絹は十分につかえと聞いても、何かそこには日々の生活のやりくりとは離れた遠い、だが苦しい響があるのである。 ヒロイックな生きか・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・いい病院がほしいということ、いい図書館がほしい、いい託児所がほしい、というわたしたちの希望は、それを自分の所有として、私有の財産として登記したい心もちとはちがいます。社会のもの、みんなのものとして、そういうものがあればよい。現在金もちだけの・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ 陶器の趣味についても同様でした。やっぱり逸物を手に入れるには金がいる。そこまでは手が届かぬ。それで晩年は見物だけでした。亡くなる前の年の秋ごろでしたか壁懸の展覧即売会がありました。その中で、優れたものを当時建築が完成しかけていた某邸の・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・全体的に見て、今日の新聞そのものの性質が、明治初年の天下の公器としての自由性を失われているのであるから、現象的にニュースの断片を注ぎ込まれ、物価騰貴とその末葉のやりくりを知らされても、事象の本源までは新聞では迚も分らなくなって来ている。・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・ このあいだ政府はインフレの物価騰貴につれて最低賃銀の基底を公表した。若い人々はあれをみて何を感じたであろうか。男子三十歳から五十歳が最低四百五十円といわれている。では二十八歳の青年、二十五歳の者、二十二歳の者、その人々の労働の報酬はど・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 書斎の方に座って、陶器の話などした。私の父がこの頃少し凝りかけていたので、自然そんな方面に向ったものと見える。そんな時も、氏は元気よい話手であった。そして、日本画壇の、所謂大家というものに対して、率直な不満を洩した。平福氏の画が好きな・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ ○自分とT先生との心持 ◎敏感すぎる夫と妻 ◎まつのケット ◎本野子爵夫人の父上にくれた陶器、 ◎常磐木ばかりの庭はつまらない。 ――○―― Aの言葉の力 ◎或こと・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・に住んで居る四十近くの男の様に投機めいた様子のあるものを抱えて居る。 しかし私の思う美くしさばかりは、どこの面をのぞいてもそう云う不快さは持って居ない。 すなおに――しとやかに――さりながらやたら無精にかきまわす事の出来ない厳かさを・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
出典:青空文庫