・・・しかも、どこかに投機的な期待をそそられる気分も動く災難のように。 明治からこんどの戦争までに日本の政府は日清、日露、第一次世界大戦、そのほか三つ以上の戦争を行った。日清戦争、日露戦争は国民全体にとって記憶のふかい戦争だとされているが、そ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・地代の騰貴。七分、八分五厘という高利の「農民銀行」を利用する富農の強化などによって、驚くべき勢で農村の階級的分裂が促進されつつあった。ロシアには一千万の労働者と、その二倍の貧農が発生しつつあった。ロマーシとゴーリキイのまわりに親密な感情をも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ ニージニの肥え太った商人達は、冬期は特に退屈に圧されて惨忍な馬鹿気た慰みをやった。商人の生活ぶりはゴーリキイの気に入らない。また所謂信心深い連中、殉教者というのが実はただ意志を固定させているだけで未来に向ってちっとも伸びようともせず、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・何故なら景気がよい、就業率は上向きだと云っても、工場に働いている人々の賃銀の上昇には残業割増、歩増などの時間外労働強化がついているのであるし、小売物価の急激な騰貴は結局、いくらかましな工場労働者の賃金をも今日では凌いでしまっている。実質賃銀・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・ ――私、戸籍登記所で改名する! ワーニカは、マトリョーナの赤い頬っぺたと、そこへおちてる金髪を眺めた。 ――マクシムに私注意した、もう。でもあいつがそれをきかない訳知ってる? マトリョーナだからさ! 私が。 ワーニカは思わ・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
・・・「物価騰貴」「どの株を買えば安全か」「買いだめ、疎開は必要か」「七万五千人の警察予備隊」と矢つぎ早の電光ニュースに奪われてしまっているところがある。けさの新聞には、「閃光を見るな、十秒間は伏せ」という原子委員会の警告さえのっている。 湯・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・奥羽その外の凶歉のために、江戸は物価の騰貴した年なので、心得違のものが出来たのであろうと云うことになった。天保四年は小売米百文に五合五勺になった。天明以後の飢饉年である。 医師が来て、三右衛門に手当をした。 親族が駆け附けた。蠣殻町・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ どこの陶器か。火の坑から流れ出た熔巌の冷めたような色をしている。 七人の娘は飲んでしまった。杯を漬けた迹のコンサントリックな圏が泉の面に消えた。 凸面をなして、盛り上げたようになっている泉の面に消えた。 第八の娘は、藍染の・・・ 森鴎外 「杯」
・・・ 建築の出来上がった時、高塀と同じ黒塗にした門を見ると、なるほど深淵と云う、俗な隷書で書いた陶器の札が、電話番号の札と並べて掛けてある。いかにも立派な邸ではあるが、なんとなく様式離れのした、趣味の無い、そして陰気な構造のように感ぜられる・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・燗をなすには屎壺の形したる陶器にいれて炉の灰に埋む。夕餉果てて後、寐牀のしろ恭しく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。蚊なし。 十九日、朝起きて、顔洗うべき所やあると問えば、家の前なる流を指さしぬ。ギヨオテが伊太利紀行もおもい出で・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫