・・・その推移がその夢の作者の胸裏の秘密のある一面の「流行の姿」を物語ることになるのである。ここにも「虚実の出入」があるといわれる。 夢には色彩が無いという説がある。その当否は別として、この事と「他門の句は彩色のごとし。わが門の句は墨絵のごと・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 俳句を修業するということは、以上の見地から考えると、退嬰的な無常観への逃避でもなければ、消極的なあきらめの哲学の演習でもなく、またひとりよがりの自慰的お座敷芸でもない。それどころか、ややもすればわれわれの中のさもしい小我のために失われ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ この所説の当否は別問題として、この人の言う意味での正しい詩の典型となるべきものが日本の和歌や俳句であろう。雄弁な饒舌は散文に任して真に詩らしい詩を求めたいという、そういう精神に適合するものがまさにこうした短詩形であろう。この意味でまた・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・この学説の当否についてはもちろん種々の議論があるであろうが、ここではもちろんそれは問題にしない。この論文の始めの序説中、日本人の独創能力に乏しい事を述べた一節に、チャンバレーン博士の言ったという言葉を引いて、「この邦土で純粋に日本固有という・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・たとえばある西洋人が甲という同じ西洋人の作物を評したのを読んだとすると、その評の当否はまるで考えずに、自分の腑に落ちようが落ちまいが、むやみにその評を触れ散らかすのです。つまり鵜呑と云ってもよし、また機械的の知識と云ってもよし、とうていわが・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・唯この文字に由て離縁の当否を断ず可らず。民法の親族編など参考にして説を定む可し。 右第一より七に至るまで種々の文句はあれども、詰る処婦人の権力を取縮めて運動を不自由にし、男子をして随意に妻を去るの余地を得せしめたるものと言うの外なし。然・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その罰の当否はしばらく擱き、とにかくに日本国において、学者と名づくる人物が獄屋に入りたるという事柄は、決して美談に非ず。窃盗博徒といえども、これを捕縛してもらさざるは、法律上において称すべき事なれども、その囚徒が獄内に充満するは、祝すべきに・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その要領は人類の居住すべき世界の土地は一定である、又その食料品は等差級数的に増加するだけである、然るに人口は等比級数的に多くなる。則ち人類の食料はだんだん不足になる。人類の食料と云えば蓋し動物植物鉱物の三種を出でない。そのうち鉱物では水と食・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・作者の自覚なしに行われたこういう題材の飛躍的な選択は、一方から見れば現実からの逃避であった。けれども、また他の一方から観察すると、そこに微妙な心理の契機がひそんでもいる。自分をどう解放していいのか分らない女の思い。身もだえする若い妻としての・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・妙にロマンティックに異性の間の友情というようなものを描いて、実際には恋愛ともいえ、あるいはもっといい加減に男女の間に浮動する感情を、その友情というようなところへ持ちこんで逃避したりする、無責任なくせにまぎらわしい甘ったるさを嫌って、かえって・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫