・・・小市民階級の娘たちが、うちが面白くないので、飛び出して、例えば映画女優になりたいとか、ダンサーを志すとか、いうことは屡々あり、そこには客観的に見た当否は別とし、自身の才能についてのぼんやりした選択が認められる場合が多い。よほど質の低い、地方・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・芸術作品は単に作品だけが独立して生れるものではない、生活が作品を作るのですから、感傷的逃避的な生活から、立派な作品が生れる筈はありません。 それならばプロレタリア作家の方はどうか。これは極めて興味ある問題です。女流作家「不振」を叫ぶ批評・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・川端康成の或る作品などは表面個人主義的な現実からの逃避を示しながら、現在の火華の出るような階級対立の現実から自身、眼を外らし、同時に読者をも科学的な世界観から切り離してくる点において完全にファッシズムの一つの支柱としての役割を持っている。群・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・ 現実逃避の文学 ――神秘主義とファッシズム――「水晶幻想」と「抒情歌」との間には一年の歳月が流れている。しかも一九三一年は、日本をこめて資本主義世界の一般的経済恐慌が、金融恐慌にまで発展・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・をかいた鏡花がお化けの世界へ逃避してしまった動機にも日本の軍国主義文化の圧力があった。 一つの戦争ごとに日本の社会全体が国際的接触をまし、日本の民草も、自分たちが資本主義をこやすかいばとしての蒼生ではなくて、人民であり、生産者であり、そ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・そのことの当否についてレーニンは度々信頼に充ち、而も正確な判断にゴーリキイを立ち戻らせるための手紙を送っている。 世界を震撼させた「十月」がやがて来た。 ゴーリキイは、当時自分の主宰していた『新生活』紙上で、この新しい人類の世紀の正・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・歴史文学というにしろ、ただ髷物であれば歴史文学であるという考えかたに反対し、同時に、今日の現実にとり組んで行きにくいからと逃避の方向で歴史の中に素材の求められる態度も、正しい歴史文学への理解でないとするのが、高木卓氏などの見解に代表されてい・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・は、十九世紀のロマン主義時代に生れたフランスの婦人作家が、女にとって苦しい結婚生活と宗教との負担に、情緒的に反抗しつつその解決は作品の中でだけ可能な夢幻境へ逃避の形でまとめているのは注目にあたいする。バルザックの「従妹ベット」「ウウジニイ・・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・生活から逃避することで、それらは得られない時代だと思う。雄々しく現実の複雑さいっぱいを、自分としての生活の建て前で判断し、整理し、働きかける筋をつかみ、そこから湧く生活の弾力ある艶が、若い女の明日の新しい美ともなるのだろう。 今日の若い・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・ 四月十日の総選挙をめざして、各政党が、どう党費をまかなっているか、「国民的監視が必要」と云われている。十五億九千万円の動産と百三十五万町歩の土地とをもつ日本の君主は、この波瀾万丈の日本全土を巡って、自身の宣戦によって戦争が引起され、全・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫