・・・ク・ミストラル、白耳義のジョルヂ・エックー等の著作をよんで郷土芸術の意義ある事を教えられていたので、この筆法に倣ってわたくしはその生れたる過去の東京を再現させようと思って、人物と背景とを隅田川の両岸に配置したのである。短篇小説『狐』と題した・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・「紅雨の最も感動したのは、かの説明者が一々に勿体つける欄間の彫刻や襖の絵画や金箔の張天井の如き部分的の装飾ではなくて、霊廟と名付けられた建築とそれを廻る平地全体の構造配置の法式であった。先ず彎曲した屋根を戴き、装飾の多い扉の左右・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・すると彼らには明かに背馳した両面の生活がある事になる。業務についた自分と業務を離れた自分とはどう見たって矛盾である。しかしこの矛盾は生活の性質から出るやむをえざる矛盾だから、形式から云えばいかにも矛盾のようであるけれども、実際の内面生活から・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ そもそも今日の社会に、いわゆる宗旨なり、徳教なり、政治なり、経済なり、その所論おのおの趣を一にせずして、はなはだしきは相互に背馳するものもあるに似たれども、平安の一義にいたりては相違うなきを見るべし。宗旨・徳教、何のためにするや。善を・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・七 雲の海 それから四年の間に、クーボー大博士の計画どおり、潮汐発電所は、イーハトーヴの海岸に沿って、二百も配置されました。イーハトーヴをめぐる火山には、観測小屋といっしょに、白く塗られた鉄の櫓が順々に建ちました。 ブド・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・いろいろな服装や色彩が、処々に配置された橙や青の盛花と入りまじり、秋の空気はすきとおって水のよう、信者たちも又さっきとは打って変って、しいんとして式の始まるのを待っていました。 アーチになった祭壇のすぐ下には、スナイダーを楽長とするオー・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・自然の様式化と、人物の、言葉すくない、然し実に躍動している配置とは旋律的な調和を保っている。ここには、自然の好きな人間の感覚それにもまして人間の生活、種々様々な人間の動きということが面白くて、気にも入って観ている人間の観かた、入りこみが流露・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・そのように十分の看護婦が配置されているサナトリアムの設備におどろくのです。 看護婦というと、日本のこれまでの感情では何となしあらゆる困難に対して献身的で犠牲の精神にしたがっている人々であり、おとなしくやさしく患者のたのみをきく人ばかりを・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・ぞく作用としては在り得ないで、その枠内で揉み合って、枠内のしきたりによって悲劇の終末へまで運ばれてゆくのが、常に正直一途な家臣としての運命でなければならなかった事情を、鴎外はいくつかの插話を興味ふかく配置しつつ立派に描写している。人間一人の・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・がすぐいろんな工場の文学研究会指導者として配置したことでもわかる。構成派の人々のまだその尾として引いている未来派的傾向、資本主義末期の小市民的な観念や社会主義社会に対する観念は、現実の力によってだけ、健康に洗われ、鍛えられ得るであろう。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫