・・・あのね、ほら、左官屋さんなんか、はいているじゃないか、ぴちっとした紺の股引さ、あんなの無いかしら、ね、と懸命に説明して呉服屋さん、足袋屋さんに聞いて歩いたのですが、さあ、あれは、いま、と店の人たち笑いながら首を振るのでした。もう、だいぶ暑い・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・、紅葉も散り、ひとびと黒いマント着て巷をうろつく師走にいたり、やっと金策成って、それも、三十にちかき荷物のうち、もっとも安直の、ものの数ならぬ小さい小さいバスケット一箇だけ、きらきら光る真鍮の、南京錠ぴちっとあけて、さて皆様の目のまえに飛び・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・コーヒー茶碗一ぱいになるくらいのゆたかな乳房、なめらかなおなか、ぴちっと固くしまった四肢、ちっとも恥じずに両手をぶらぶらさせて私の眼の前を通る。可愛いすきとおるほど白い小さい手であった。湯槽にはいったまま腕をのばし、水道のカランをひねって、・・・ 太宰治 「美少女」
出典:青空文庫