・・・ 金の分列というか、そうやって同じ一円をいろいろの銀貨や白銅でいろいろの数に多くしたり少くしたり、それでつまり一円に出来る面白さが強く子供の心を捕えた、ものを買える買えないはどうでもよくなった。たった二つのお金が、二十銭や十銭の銀貨まぜ・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・ わたしは今、この時刻に、モスクワの全市を赤旗と音楽と飛行機の分列式とでおおいながら、壮麗極まるデモで行進しているソヴェトの労働者の有様を思い、ゲンコを握って、このひどい反動的空気をなぐりつけたい気になった。 実にひどい違いだ。・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・此処でわれわれの完全に共通した問題は分裂する。 われわれは前に、その正邪に拘らず、資本主義を認め、社会主義を認めた。この相対立する二つの社会機構を認めたと云うことは、われわれが歴史を認めたと云うことに他ならない。しかしながら、われわ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・彼の爪が勃々たる雄図をもって、彼の腹を引っ掻き廻せば廻すほど、田虫はますます横に分裂した。ナポレオンの腹の上で、東洋の墨はますますその版図を拡張した。あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・益々無数の火花を放って分裂するであろう。かかる世紀の波の上に、終にまた我々の文学も分裂した。 明日の我々の文学は、明らかに表現の誇張へ向って進展するに相違ない。まだ時代は曾てその本望として、誇張の文学を要求したことがない。そうして、今や・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・勝利を得るまでの分裂した生活の惨めさは、目下の自分の力ではいかんともし難い。 私は一つのことを悟り得た。迷いと屈托とに遅滞しているゆえをもって、直ちにその人の人格を卑しめてはいけない。態度の純一のゆえに、直ちにその人の人格を過大視しては・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・これなくしては人は意識の混沌と欲求の分裂との間に萎縮しおわらなくてはならぬ。人が何らか積極的の生を営み得るためには「虚無」さえも偶像であり得る。 偶像が破壊せられなくてはならないのは、それが象徴的の効用を失って硬化するゆえである。硬化す・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫