・・・ そして急に眼鏡を外して、そっと涙を拭いたかと思うと、何思ったのかいきなり、ぺろっと舌を出して、幸福そうに笑った。 織田作之助 「眼鏡」
・・・一升ほど持って帰っても、じきにぺろっと失くなるのやそうで……」 峻が語を聴きながら豆を咬んでいると、裏口で音がして信子が帰って来た。「貸してくれはったか」「はあ。裏へおいといた」「雨が降るかもしれんで、ずっとなかへ引き込んで・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 僕はあいつを最初瞥見したとき、こんにゃくの舌で顔をぺろっと舐められたような気がしたよ。思えば、たいへんな仲間ばかり集って来たものさ。佐竹、太宰、佐野次郎、馬場、ははん、この四人が、ただ黙って立ち並んだだけでも歴史的だ。そうだ! 僕はやるぞ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
出典:青空文庫