・・・が、それよりも、「――ひとつ社会奉仕をしてみようと思うんですよ」 と、いけ酒蛙酒蛙と言ったのには、一層あきれてしまった。 何が社会奉仕なもんか。いってみれば、施灸巡業で一儲けしようというだけの話じゃないか。一里八銭の俥よりも、三・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・私はその天水桶へ踏みこんだ晩、どんな拍子からだったか、その女を往来へ引っぱりだして、亡者のように風々と踊り歩いたものらしい。そして天水桶へ陥ったものらしい。彼はそのことも書くに違いない。――彼は今、哀しき道伴れという題で、私のことを書いてい・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 次つぎ止まるひまなしにつくつく法師が鳴いた。「文法の語尾の変化をやっているようだな」ふとそんなに思ってみて、聞いていると不思議に興が乗って来た。「チュクチュクチュク」と始めて「オーシ、チュクチュク」を繰り返す、そのうちにそれが「チュク・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・足が滑った拍子に気絶しておったので、全く溺れたのではなかったとみえる。 そして、なんとまあ、いつもの顔で踊っているのだ。―― 兄の話のあらましはこんなものだった。ちょうど近所の百姓家が昼寝の時だったので、自分がその時起きてゆかなけれ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ そうする中に、志村は突然起ち上がって、その拍子に自分の方を向いた、そして何にも言いがたき柔和な顔をして、にっこりと笑った。自分も思わず笑った。「君は何を書いているのだ、」と聞くから、「君を写生していたのだ。」「僕は最早水車・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ かつて酒量少なく言葉少なかりし十蔵は海と空との世界に呼吸する一年余りにてよく飲みよく語り高く笑い拳もて卓をたたき鼻歌うたいつつ足尖もて拍子取る漢子と変わりぬ。かれが貴嬢をば盗み去ってこの船に連れ来たらばやと叫びし時は二郎もわれも耳をふ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ すなわち学校、孤児院の経営、雑誌の発行、あるいは社会運動、国民運動への献身、文学的精進、宗教的奉仕等をともにするのである。二つ夫婦そらうてひのきしんこれがだいいちものだねや これは天理教祖みき子の数え歌だ。子を・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・正義をもって社会悪を克服するという倫理的な根拠なくして、単なる物的必然力によって、人間は犠牲的奉仕にまで感奮することは出来るものではない。 倫理思想は内側から社会を動かす原動力である。そして倫理学はその実践への機を含んでしかも、直接に発・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「国主の御用ひなき法師なれば、あやまちたりとも科あらじとや思ひけん、念仏者並びに檀那等、又さるべき人々も同意したりとぞ聞えし、夜中に日蓮が小庵に数千人押し寄せて、殺害せんとせしかども、いかんがしたりけん、其夜の害も免れぬ。」 このさ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
一 女性と信仰 男子は傷をこしらえることで人間の文明に貢献するけれども、婦人はもっと高尚なことで、すなわち傷をくくることで社会の進歩に奉仕するといった有名な哲人がある。この人間の文化の傷を繃帯するということ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫