・・・とげとげする触感が、寝る時のほか脱いだ事のない草鞋の底に二足三足感じられたと思うと、四足目は軟いむっちりした肉体を踏みつけた。彼れは思わずその足の力をぬこうとしたが、同時に狂暴な衝動に駈られて、満身の重みをそれに托した。「痛い」 そ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・「翁様、娘は中肉にむっちりと、膚つきが得う言われぬのが、びちゃびちゃと潮へ入った。褄をくるりと。」「危やの。おぬしの前でや。」「その脛の白さ、常夏の花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが――年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・デパートの退け刻などは疲れたからだに砂糖分を求めてか、デパート娘があきれるほど殺到して、青い暖簾の外へ何本もの足を裸かのまま、あるいはチョコレート色の靴下にむっちり包んで、はみ出している。そういう若い娘たちにまじって、例の御寮人さんは浮かぬ・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・寺田はむっちりしたその腕へプスリと針を突き刺した途端一代の想いがあった。針を抜くと、女中は注射には馴れているらしく、器用に腕を揉みながら、五番の客が変なことを言うからお咲ちゃんに代ってもらっていいことをしたという言葉を聴いて、はじめて女中が・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・心斎橋筋まで来て別れたが、器用に人ごみの中をかきわけて行くマダムのむっちり肉のついた裸の背中に真夏の陽がカンカン当っているのを見ながら、私はこんど「ダイス」へ行けば危いと呟いた途端、マダムは急に振り向いたが、派手な色眼鏡を掛けた彼女の顔には・・・ 織田作之助 「世相」
・・・しかし、むっちり肉のついた肩や、盛り上った胸のふくらみや、そこからなだらかに下へ流れて、一たん窪み、やがて円くくねくねと腰の方へ廻って行く悩ましい曲線は、彼女がもう成熟し切った娘であることを、はっと固唾を飲むくらいありありと示していた。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・縮緬のすらりとした膝のあたりから、華奢な藤色の裾、白足袋をつまだてた三枚襲の雪駄、ことに色の白い襟首から、あのむっちりと胸が高くなっているあたりが美しい乳房だと思うと、総身が掻きむしられるような気がする。一人の肥った方の娘は懐からノートブッ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ 娘は、派手な銘仙の両袖をかき合わせるようにして立っていたが、廊下のゴザの上へ自分と並んで坐り、小さい袋を横においた。むっちりしたきれいな手を膝の上においてうな垂れている。中指に赤い玉の指環がささっている。メリンスの長襦袢の袖口には白と・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫