・・・ こういう様相が文化とよばれるものだろうか。こんなまとまりのない、二重三重の不均衡でがたぴし、民族の隷属がむき出されているありさまが、わたしたち日本人の文化の本質だというのだろうか。 戦時中の反動で、しきりに教養だの文化だのと求めな・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・その一つの様相として、そのこともいえるだろう。 さて、「科学の学校」がこれからの夏の一日にめぐり合う運命はあるときは深い樹蔭へたずさえて行かれて読まれるのかもしれない。ある日は、私がそれをよんだように電車の中でつとめの行きかえりに読まれ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 名のとおり日本服を改良して、洋装との間にしようとした改良服は、上を、つつ袖の口をひらひら飾りにし、うち合わせ襟で、スカートの部分とくっつけたワンピースだった。スカートは袴の伝統をもって、きちんとたたんで襞をつけられ、バンドのうしろは袴・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・社会主義的リアリズムを、別のことばで表現すれば、それはとりもなおさず、前進する人類社会の歴史の見とおしにたって、いりくんで発言されている階級及び個人の主観的主張の裏にまでかいくぐり、現実の諸過程の様相と本質とを統一的に把握し再現してゆこうと・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ この家での生活は、子供が三人になったら又一つ様相変化して大変なものです。太郎は今私と一つ部屋に寝て居ります、泰子が四十度ほど熱を出しているので。赤坊についている看護婦さんは泰子が熱を出すと同時に自分も熱が出たそうで、ねて居ります。赤坊・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・高層建築が左右からそびえたって空も見えないレキシントン街を背景に、もんぺをぬいだ赤松常子参議員が、白足袋に草履の足もとも元気そうに、コート姿をはこんでいる。洋装の九人の婦人たちもそれぞれ元気そうにかたまって歩いていて、多忙にくみ立てられたニ・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
文化という二つの文字に変りはないようだけれども、歴史のそれぞれの時代で文化の示す様相は実に変化の激しいものがある。そして、文化が危期におかれるという現実もあり得るのである。 大体私たちは日常の言葉として文化を云う場合、・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・等はかかる情勢の裡にあって、日常生活の様相においてさえも新たな一つの歴史の段階に入らんとしつつある階級人のそれぞれの苦痛の姿を語った。藤森成吉氏の戯曲「火」は脱獄後の長英と親友鈴木春山とが描かれ、「三十年」は昨年の同じ作者による「シーボルト・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「文化の様相を決定するのは生産力である」という社会の事実である。 さて、前述のように、人間社会の生産力の発達につれて、今日まで発達して来た文化をおおまかにさかのぼってみると、まず始めに原始的文化があり、古代的、封建的文化の時代を経て・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・それと同時に、この非常時に女が洋装をしていることは望ましくない。和服で通勤せよ、ということになった。それは真夏のことであった。タイピストたちは、今年はことに激しかった猛暑の中で大汗になり、袂を肩へかつぎあげて、残業で働いている。そういう話を・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
出典:青空文庫