・・・今の評家はかほどの事を知らぬ訳ではあるまいから、御互にこう云う了見で過去を研究して、御互に得た結果を交換して自然と吾邦将来の批評の土台を築いたらよかろうと相談をするのである。実は西洋でもさほど進歩しておらんと思う。 余は今日までに多少の・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・する以上は、自己の存在を確実にし、此処に個人があるということを他にも知らせねばならぬ位の了見は、常人と同じ様に持っていたかも知れぬ。けれども創作の方面で自己を発揮しようとは、創作をやる前迄も別段考えていなかった。 話が自分の経歴見たよう・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・政府のためを謀れば、はなはだ不便利なり、当人のためを謀れば、はなはだ不了簡なり。今の学者は政府の政談の外に、なお急にして重大なるものなしと思うか。 手近くここにその一、二を示さん。学者はかの公私に雇われたる外国人を見ずや。この外国人は莫・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・たとえばアンドロメダにもオリオンにも猟犬座にもみんなあります。猟犬座のは渦巻きです。それから環状星雲というのもあります。魚の口の形ですから魚口星雲とも云いますね。そんなのが今の空にも沢山あるんです。」「まあ、あたしいつか見たいわ。魚の口・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・同時に、その評論をめぐって、そこに猟犬のように群がりたかって、わたしを噛みやぶり泥の中へころがすことで、プロレタリア文学運動そのものを泥にまびらす役割をはたした人々の動きかた――政治性も、くっきりと描きだすことができる。それは、かみかかった・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・もう経営のことは男の人たちにまかせておいてもいいなどという料簡ではいられないこと。クラブの機関紙としてこそ用紙の割当が許可され、みんなも慾得ぬきに執筆し、クラブそのものは少しずつでも大きくなってきているのに、ここで新聞を経営部の主張によって・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・そして笑いながら、「何しろ馬、馬丁と猟犬を何匹も飼っているような学生がいたんだから、こっちは人並のつき合いも出来かねるようだったよ。教授から個人指導をうけるわけだが、そんな金もありゃしなかったしね」と語った。楡の木のかげの公園で、町の若者た・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ この檀那に一本お見舞申して、金を捲き上げようと云う料簡で、ツァウォツキイは鉄道の堤の脇にしゃがんでいた。しかしややしばらくしてツァウォツキイは気が附いた。それは自分が後れたと云うことである。リンツマンの檀那はもう疾っくに金を製造所へ持・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・お城に続いてる古い森が大層広いのを幸いその後鹿や兎を沢山にお放しになって遊猟場に変えておしまいなさり、また最寄の小高見へ別荘をお建てになって、毎年秋の木の葉を鹿ががさつかせるという時分、大したお供揃で猟犬や馬を率せてお下りになったんです。い・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫