・・・「珈琲も出したらどうだね。ケーキつき五円。――入口の暖簾は変えたらどうだ、ありゃまるでオムツみたいだからね」 私は出資者のような口を利いて「千日堂」を出た。「チョイチョイ来とくなはれ」「うん。来るよ」 千日前へ来るのがた・・・ 織田作之助 「神経」
・・・ 珈琲、ケーキ、イチゴミルク、エビフライ、オムレツ……。 運ばれて来るたびに、靴磨きの兄弟――「うわッ、うまそうやな」 と、唾をのみ込み咽を鳴らしながら、しかし、「――これ食べてもかめへんか。ムセンインショクでやられへん・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・働いている五人の女の子に、クリスマス・プレゼントだと言って無闇にお金をくれてやって、それからお昼頃にタキシーを呼び寄せさせて何処かへ行き、しばらくたって、クリスマスの三角帽やら仮面やら、デコレーションケーキやら七面鳥まで持ち込んで来て、四方・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
出典:青空文庫