・・・十日ばかり、ほとんど毎日野天で昼間は暮らし、大分日にやけ、足が達者になりました。スキーで有名な志賀高原へ一昨日行きました。新しいドライヴ・ウエイを二十分ばかりのぼると杉、松、栗、柏などの見事な喬木の森がつきて白樺、つつじ、笹などの高原植物に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかし太郎は十二月の十日の誕生日に、スキーの道具を一揃いもらいます。そして一辷りやるでしょう。父さんはちぢこまってどてらを着ていても、息子は雪の中にころべまた起き上って辷れ、と願う心は自然な健全さを持っているものですね。私もこれには満足です・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
モスクワじゅうが濡れたビードロ玉だ。きのうひどく寒かった。並木道の雪が再び凍って子供連がスキーをかつぎ出した。ところへ今夜は零下五度の春の雨が盛にふってる。どこもかしこもつるつるである。 黒くひかってそこへ街の灯かげを・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
レーニングラードへ 夜十一時。オクチャーブリスキー停車場のプラットフォームに、レーニングラード行の列車が横づけになっている。 麻袋。樺の木箱に繩でブリキやかんをくくりつけたもの。いろんな服装の群集・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ その解決を求めて、今年のブルジョア文学は前例ないほどドストイェフスキーやバルザック、ゴーゴリなど外国の古典的作品の再検討をとりあげ、明治文学研究も行われた。リアリズムの問題も、プロレタリア文学運動に新たな方向を与えた社会主義的リアリズ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ ターニャ・イワノヴナはレーニングラードのマリンスキー劇場の第一舞踊手と結婚した。美男の良人につかまって数番の初等トウダンスと両脚を床の上で一直線に展くことをおそわった時 ターニャ・イワノヴナは自分の姙娠したことを知った。踊りての良人は・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・スタニスラフスキーのオペラ劇場。ダンチェンコの指導する音楽劇団。チェホフとゴーリキーとで世界に馴染のモスクワ芸術座。国立アカデミー小劇場のように、革命以前からの古い伝統をもち、現在でも次に来るべき若いソヴェト演劇技術家指導に重大な役割を演じ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・荒木巍氏が、最近出版された小説集の印税代りに、出版書肆からスキー道具一式を貰い、「滑れ銀嶺、歓喜をのせて」雪上出版記念会を行ったというエピソードは、朗らかなようではあるが、私に一つのことを想い起させた。それは、明治二十何年という時代、三宅花・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・を感じとる人として、またそれを再現する人として自分を分裂させずにあらゆる場面を生きとおしてゆくということ、そのように機動的な文学性をきたえてゆくということ、これが人民の文学の新しい発展の基礎訓練です。スキーや水泳の選手が、基礎練習として体操・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫