・・・花月園というのは京都にあったパラダイスというようなところらしいです。いろいろ面白かったがその中でも愉快だったのは備えつけてある大きなすべり台だと云いました。そしてそれをすべる面白さを力説しました。ほんとうに面白かったらしいのです。今もその愉・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・すべて、いまは不吉な敵国の言葉になったが、パラダイス・ロストをもじって、まあ「人間失格」とでもいうような気持でそんな題をつけたのであって、その日記形式の小説の十一月一日のところに左のような文章がある。実朝をわすれず。伊豆・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・この人、十四年前に第三の天にまで取り去られたりわれは斯のごとき人を知るかれパラダイスに取り去られて言い得ざる言、人の語るまじき言を聞けり。われ斯のごとき人のために誇らん、然れど我が為には弱き事のほか誇るまじ。もし自ら誇るとも我が言うところ誠・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・塞がっているのが大家さんの内でその隣が我輩の新下宿、彼らのいわゆる新パラダイスである。這入らない先から聞しに劣る殺風景な家だと思ったが、這入って見るとなおなお不風流だ。しかのみならずどの室にも荷物が抛り込んであってまるで類焼後の立退場のよう・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・それは、ひどい搾取下にある島民たちで生活されているが、見たところは、パラダイスであった。セーラーたちは、いつもその島々を、恋人のように懐しんだ。だが、その島も、船が寄港しない島に限るのであった。船がつくと、どんな島でも、資本主義にその生命を・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・その目的は死後に極楽に往生していわゆる「パラダイス」の幸福を享けんとの趣意ならん。深謀遠慮というべし。されども不良の子に窘しめらるるの苦痛は、地獄の呵嘖よりも苦しくして、然も生前現在の身を以てこの呵嘖に当たらざるを得ず。余輩敢えて人の信心を・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・もしわれわれが科学の成果に加うるに人間関係方面の成果をもつけ加えることができたならば、この世の中は完全なパラダイスであろう」「むずかしいことは、人間関係の進歩は自然科学の進歩と歩調をあわせなかったということである」云々と。 一九〇〇年に・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・イギリスにおいて、ミルトンの一夫一婦 純潔な家庭を称揚したパラダイス ロストフランスの人々も家庭というものの幸福のために坊主の追放を考えた。p.72のルカシュスの言葉〔欄外に〕 ドイツ ルーテル スコットランド ノックス・・・ 宮本百合子 「バルザック」
出典:青空文庫