・・・で二人の友がけんかをしようとするときに、こわれたレコードのガーガーと鳴り出すその非音楽的な不快な騒音が異常に象徴的な効果をもって場面のやまを頂上へと押し上げる。 象徴的であるがゆえにまた音響はライトモチーヴとしても有効に使用される。「モ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これは写真としてはリリュストラシオンのさし絵で見た事はあったが、これが映画になったのはおそらく今度が始めてであり、ことに発声映画としてはこれがレコードであるにちがいない。蝗の羽音がどれだけ忠実に再現されているかは明らかでないがともかくも不思・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・その証拠には、街頭を歩いているラッパズボンのボーイらが店頭からもれ出るジャズレコードの音を聞けば必ず安物の器械人形のように踊りだす。それだからこれは野蛮民の戦争踊りが野蛮民に訴えると同じ意味において最高の芸術でなければならないのである。これ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・と人間のそれとのレコードを分析し、比較するだけの手数でいずれとも決定されるからである。 こうした研究の結果いかんによっては、ほととぎすの声を「テッペンカケタカ」と聞いたり、ほおじろのさえずりを「一筆啓上仕候」と聞いたりすることが、うっか・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
何事でも「世界第一」という名前の好きなアメリカに、レコード熱の盛んなのは当然のことであるが、一九二九年はこのレコード熱がもっとも猖獗をきわめた年であって、その熱病が欧州にまでも蔓延した。この結果としてこの一年間にいろいろの・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・現代では競技会でメダルやカップやレコードを仕留めるだけが目的の空中曲技も、昔の武士は生命のやりとり空中組み打ちの予行練習として行なったものと見える。 ポアンカレ著「科学者と詩人」の訳本を見ていたら、「学者は普通に、徐々にしか真理を征服し・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 踊子の栄子と大道具の頭の家族が住んでいた家は、商店の賑かにつづいた、いつも昼夜の別なくレコードの流行歌が騒々しく聞える千束町を真直に北へ行き、横町の端れに忽然吉原遊廓の家と灯とが鼻先に見えるあたりの路地裏にあった。或晩舞台で稽古に夜を・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・新橋赤坂辺の茶屋の座敷で、レコードの伴奏で裸体ダンスを見せる女があった。一時評判になって前の日から口を掛けて置かなければ呼んでも来られないというほどの景気であった。裸体を見せる女は芸者ではないが、商売上名義だけ芸者ということになっていたので・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ セコンドメイトは、デッキの上と橋板の上とでは、レコードの両面見たいに、あべこべの事を云い始めた。詰らない事を云って、自分が疳癪玉の目標になっては、浮ばれないと思いついたのだ。「セキメイツ。長いものが、長いものの癖をして、巻かねえん・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・どうしてって風力計がくるくるくるくる廻っていて僕たちのレコードはちゃんと下の機械に出て新聞にも載るんだろう。誰だっていいレコードを作りたいからそれはどうしても急ぐんだよ。けれども僕たちの方のきめでは気象台や測候所の近くへ来たからって俄に急い・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫