・・・僕は彼等の関係を肯定してやる根拠の一半を失ったのだから、勢い、前のような好意のある眼で、彼等の情事を見る事が出来なくなってしまったのだ。これは確か、君が朝鮮から帰って来た頃の事だったろう。あの頃の僕は、いかにして妻の従弟から妻を引き離そうか・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・しかし作品そのものを見れば、作品の美醜の一半は芸術家の意識を超越した神秘の世界に存している。一半? 或は大半と云っても好い。 我我は妙に問うに落ちず、語るに落ちるものである。我我の魂はおのずから作品に露るることを免れない。一刀一拝した古・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・故に三下りの三味線で二上りを唄うような調子はずれの文章は、既に文章たる価値の一半を失ったものと断言することを得。ただし野良調子を張上げて田園がったり、お座敷へ出て失礼な裸踊りをするようなのは調子に合っても話が違う。ですから僕は水には音あり、・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・いきどころをもたないり災者の一半は、そのときも、まだ、救護局が建設した、日比谷、上野、その他のバラックの中に住んでいました。工兵隊は引つづき毎日爆薬で、やけあとのたてもののだん片なぞを、どんどんこわしていました。九階から上が地震でくずれ落ち・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・私にも、責任の一半を持たせて下さい。注射しなけれあいいんでしょう?」「いいえ、保証人から全快までは、と厳格にたのまれてあります。」ただ、飼い放ち在るだけでは、金魚も月余の命、保たず。いつわりでよし、プライドを、自由を、青草原を! 尚、こ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ 雷電の怪物が分解して一半は科学のほうへ入り一半は宗教のほうへ走って行った。すべての怪異も同様である。前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・私の思考実験の一半はすでに現実化されたようでもあるが、残る半分すなわち日刊の廃止という事はちょっと実現される蓋然性が乏しい。 しかし旬刊週刊等の発行によって個人個人にこの実験を不完全ながらも遂行する事が可能になったように見える。すなわち・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現の方法もまた世が進めば進むほど複雑になるのは当然であるが、これをごく約めてどんな方面に現わ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・と手もなく説明するので、余の空想の一半は倫敦塔を見たその日のうちに打ち壊わされてしまった。余はまた主人に壁の題辞の事を話すと、主人は無造作に「ええあの落書ですか、つまらない事をしたもんで、せっかく奇麗な所を台なしにしてしまいましたねえ、なに・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・より授けられたる金を請取り之を日々の用度に費すのみにして、其金は自家の金か、借用したる金か、借用ならば如何ようにして誰れに借りたるや、返済の法は如何ようにするなど、其辺は一切夢中にして、夫妻同居、家の一半を支配する主婦の身にてありながら、自・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫