・・・しかし当初この煉瓦造を経営した建築者の理想は家並みの高さを一致させた上に、家ごとの軒の半円形と円柱との列によって、丁度リボリの街路を見るように、美しいアルカアドの眺めを作らせるつもりであったに違いない。二、三十年前の風流才子は南国風なあの石・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・この点において私と芝居通の諸君と一致しているかどうだか伺います。御婆さんに賛成なさるか、私に同意なさるかで事はきまります。 忘れました。局部内容発現の芸術でもっとも旨かったのは蝙蝠安ですな。あれは旨い。本当にできてる。ゆすりをした経験の・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・何となれば、幾何学においては、その根本概念が感官的直観と一致するが故に、それは何人にも受入れられるが、形而上学的問題においては、最始の根本概念を明晰に判明に把握することが困難なのである。本来の性質からは、それは幾何学のものよりも、一層明晰な・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 偶然の中に於て自然を穿鑿し種々の中に於て一致を穿鑿するは、性質の需要とて人間にはなくて叶わぬものなり。穿鑿といえど為方に両様あり。一は智識を以て理会する学問上の穿鑿、一は感情を以て感得する美術上の穿鑿是なり。 智識は素と感情の変形・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・それがために今まででも互に知り合うていた俳句の標準などもいよいよ精しくわかって来るので、その標準の一致して居る点、一致せん点などについて今更のように新に発明するところがある時もある。それについてつくづくと考えて見るにわれわれの俳句の標準は年・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ テねずみが、「それで、その、わたしの考えではね、どうしてもこれは、その、共同一致、団結、和睦の、セイシンで、やらんと、いかんね。」と言いました。 クねずみは、「エヘン、エヘン。」と聞こえないようにせきばらいをしました。相手・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・居留民はそこにおける地位、財産を守ろうとする一致した目標をもってがんばっている。士卒は兵士としての絶対の避くべからざる任務に服している。その間へ、銃をとって絶対に戦わなければならないでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・君なんぞの理想と一致するだろうと思うが、どうかねえ。」 木村は馬鹿々々しいと思って、一寸顔を蹙めたくなったのをこらえている。 そのうち停留場に来た。場末の常で、朝出て晩に帰れば、丁度満員の車にばかり乗るようになるのである。二人は赤い・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・もしも彼らが感覚派なるものに向って、感覚派も根本的生活活動から感覚的であらざるが故に、感覚派の感覚も所詮外面的糊塗であると云うがごとき者あらば、その者は生活の感覚化と文学的感覚表徴とを一致させねばやまない無批判者にちがいない。もしも人々に健・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・そこでこの妃のその後の運命を語る段になると、話は俄然『熊野の本地』に一致してくる。父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫