・・・従って天然界のある状態がその人間に有利なるか不利なるかは時と場所とによりて変化す。例えば水草を追って移牧する未開人にとりては時とともに利害の係る土地の範囲を移動す。また一つの都府の市民というごとき抽象的の団体を考うる時はその要素たる各個人と・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・そうして後に不利な証拠物件を提供するためにダンサーの指環を靴磨きに贈らせ、靴磨きの金鎚をその部屋に遺却させる。彼等のアパートにおける目撃者としてアパートの掃除婦を役立たさせるためにわざわざ浅岡に水を汲みにやって廊下でこのおばさんに出逢わせて・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 少なくも相対性原理はたとえいかなる不備の点が今後発見され、またたとえいかなる実験的事実がこの説に不利なように見えても、それがために根本的に否定されうべき性質のものではないと私は信じている。 三 相対性原理の・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・どちらかと言えば日本のように大陸の東側、大洋の西側の国は気候的に不利な条件にある。このことは朝鮮満州をそれと同緯度の西欧諸国と比べてみればわかると思う。ただ日本はその国土と隣接大陸との間にちょっとした海を隔てているおかげでシベリアの奥にある・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 市電争議の原因はなかなか複雑で到底科学者などにはわからないような事がらがいろいろ裏面に伏在しているには相違ないであろうが、しかしたくさんな原因の一つとしては、市電が経済的に不利な経営法を行ないきたったという事実もあるであろう、そうして・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 戦いは王に不利であった。……王はトーレ・フンドに切りつけたが、魔法の上着は切れなかった。そしてトーレの着たとなかいの皮からぱっと塵が飛び散った。王は将軍のビオルン(熊に「鋼鉄のかみつけないこの犬はお前が仕止めてくれ」と言った。ビオルン・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・啻に自身の不利のみならず、男子の醜行より生ずる直接間接の影響は、延て子孫の不幸を醸し一家滅亡の禍根にこそあれば、家の主婦たる責任ある者は、自身の為め自家の為め、飽くまでも権利を主張して配偶者の乱暴狼藉を制止せざる可らず。吾々の勧告する所なり・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・家臣の一部分が早く大事の去るを悟り、敵に向てかつて抵抗を試みず、ひたすら和を講じて自から家を解きたるは、日本の経済において一時の利益を成したりといえども、数百千年養い得たる我日本武士の気風を傷うたるの不利は決して少々ならず。得を以て損を償う・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・自分がその若い者の主人の立場にいるということで、その娘さんには主人と雇人との利害の撥き合う面だけが感じられて、しかも、自分にとって不利を与えられたことの怒りだけに立って、その気持に自分をまかせ切っているのであった。 そういう生活の感情を・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・書類というものはなかったから、どうも技術家の不利である。そこで、もう一人の専務が羽織を一着に及んだ乾分をO・T社長宅へやった。行った人間は、白鞘をすこしのぞかせたそうだ。裁判は急転直下、有利に解決し、今度は乾分をやった方の男が音頭をとって経・・・ 宮本百合子 「くちなし」
出典:青空文庫