・・・それは世にもまれな、すなわち不死の薬である。これをめしあがれば、けっして死ということはないと、天子さまに申しあげたのでありました。二「君! 金峰仙って、あの山かい。」といって乙は、あちらに見える山の方を指して丙に問いまし・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・ただこれは、東海に不死の薬をもとめ、バベルに昇天の塔をきずかんとしたのと、同じ笑柄である。 なるほど、天下多数の人は、死を恐怖しているようである。しかし、彼らとても、死のまぬがれぬのを知らぬのではない。死をさけられるだろうとも思っていな・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・只だ是れ東海に不死の薬を求め、バベルに昇天の塔を築かんとしたのと同じ笑柄である。 成程天下多数の人は死を恐怖して居るようである、然し彼等とても死の免がれぬのを知らぬのではない、死を避け得べしとも思って居ない、恐らくは彼等の中に一人でも、・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・またわれわれの科学的想像力の枯渇した場合に啓示の霊水をくむべき不死の泉である。また知識の中毒によって起こった壊血症を治するヴィタミンである。 現代科学の花や実の美しさを賛美するわれわれは、往々にしてその根幹を忘却しがちである。ルクレチウ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・然し、愛だけはそうでなく、不死で、不滅で、同時に、或人の持つ総量に変ることないのを知った。 ○ 人間が、血縁の深さに惑わされ過ぎることを思う。いつか、人間の如何那関係に於ても、欠けると大変なのは、友情だと云う・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・ 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にしている愛は、本質に於て不死と普遍とを直覚させています。 けれども、若し、明日、彼を、冷たい、動かない死屍として見なければならなかったら、どうでしょう! 心が息を窒めてし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 真の愛に跪拝するものが、どうして、不死の霊魂の栄を見ないで居られよう。 又如何うして、あらゆる幸福から虐げ追われた不幸な人々の魂の吐息に耳を傾けずに居られよう。 今、此の静安な夜の空の下に、深く眠る幸福な人々よ、 又、終夜・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・ 婆さんは、私の家に、金のなる木があって、私は不死の生をさずかって居るとでも思って居る様な口調で、スラスラと「何のこれしきの事」と云う調子で云う。「ほんにそうだのし。 浅黄の木綿の大風呂敷を斜に背負って居るお繁婆さん・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ またたってお事が許いて欲しくば偉うお事をお守りなされる神に願うて不死の薬なりいただいてわしの十代あとの皇帝に許いておもらいなされ。王は静かに立ち上って音もなく供人にかこまれて中央の扉のかげに消える、舞台には法王の群一つになる。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫