・・・ 過去に於て中世の騎士気質の伝統を受けている上に、彼等は冒険的な新生活に踏み込もうとするに当って、如何なる危険をも物ともせず随伴して来た女性に向っては、一層深い敬意を抱かせられました。信仰と希望とのみに頼って、勇ましく新天地に活動しよう・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ ヨーロッパ諸国の社会の進歩とルネッサンス以来の人間解放の方向とは、中世封建の社会から女にだけ強要された野蛮な貞操の縛しめをといた。世界に資本主義の生産と経済が発達するにつれて個人の権利は主張されて近代資本主義社会の機構の範囲で民主・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・鋳型にはめたような中世の肖像画からレオナルドの生きた人間がおどり出した。ディフォーメイションは大づかみにいえばそのものとして発展する新しさを失った、近代の資本主義の社会の現実の中で、それを本質的に飛躍させる力をもたない精神が物憂く非人間的な・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・これらの中世のおそろしい情熱の物語、情熱の悲劇は、当時絶対の父権――天主・父・夫の権力のもとに神に従うと同じように従わなければならなかったスペインやイタリヤの女性たちの胸の中に、もう「人間」が目覚めはじめてきていた証拠である。教会と父権とが・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 何故なら、どの国の、どの階級の文学でも、その発展はきっちりその国のその階級の経済的政治的地位、それに伴う文化の発達の程度と結びついている。 中世紀の文学は僧侶に独占されていた。中世期の封建的なヨーロッパに支配権をもっていたのは王と・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・私たちは、ギリシャの彫刻を非常に尊重して、たとえば、ミロのヴィーナスなどといえば、それこそ常識の範囲でも立派なものとしてうけいれられているのであるけれども、そのギリシャの彫刻にしろ、文芸復興までの暗い中世の時代には、常識がきびしい宗教の重し・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・レッド・パージとそれに反対する学生の大量な処分は、全く中世的な方法であり、みせしめのためのはりつけ同然です。この演出では、観衆の錯覚がたくみに利用されている。すなわち、警官隊の野蛮な襲撃や、検挙された学生が数百名にのぼることを、さも日本の学・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・ 中世の末にヨーロッパの航海者たちが初めてアフリカの西海岸や東海岸を訪れたときには、彼らはそこに驚くべく立派な文化を見いだしたのであった。当時のカピタンたちの語るところによると、初めてギネア湾にはいってワイダあたりで上陸した時には、・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・たとえ偶像礼拝の傾向が聖母崇拝や使徒崇拝などの形で生き残って行ったとしても、美しいギリシア諸神の像はついに中世の闇の内に隠れてしまった。八世紀の偶像破壊運動は、キリスト教の聖者像をさえも寛容しようとしないものであった。 やがて新しい時代・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・『イリアス』が古代世界を代表し、『神曲』が古代と中世とを包括し、『ファウスト』が古代中世近代の全体を一つの世界にまとめ上げた、というように、大仕掛けな、時代全体のみならず、人類の運命全体を表現しようとする芸術品は、我々の時代においても、現戦・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫