・・・守衛は何人か交替に門側の詰め所に控えている。そうして武官と文官とを問わず、教官の出入を見る度に、挙手の礼をすることになっている。保吉は敬礼されるのも敬礼に答えるのも好まなかったから、敬礼する暇を与えぬように、詰め所を通る時は特に足を早めるこ・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・渠は明治二十七年十二月十日の午後零時をもって某町の交番を発し、一時間交替の巡回の途に就けるなりき。 その歩行や、この巡査には一定の法則ありて存するがごとく、晩からず、早からず、着々歩を進めて路を行くに、身体はきっとして立ちて左右に寸毫も・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ 看護手交代! 用意! 担え!」 号令を掛けたのは我衛生隊附のピョートル、イワーヌイチという看護長。頗る背高で、大の男四人の肩に担がれて行くのであるが、其方へ眼を向けてみると、まず肩が見えて、次に長い疎髯、それから漸く頭が見えるのだ。・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・そのうちに夜が明けたので、看護婦を休ませて交替しました。病人は余程その看護婦が気に入らなかったと見えて、すぐ帰して仕舞えと言います。私が暫く待てと言っても彼はきき入れようとはしません「イヤ、帰して下さい。病人の扱い方を知らぬのだもの、荒々し・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 彼は、その時の情景をいつまでもまざまざと覚えていた。 どこからともなく、誰れかに射撃されたのだ。 二人が立っていたのは山際だった。 交代の歩哨は衛兵所から列を組んで出ているところだった。もう十五分すれば、二人は衛兵所へ帰っ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立った。朝が来るのを待って兵士達は、それに乗りこんで出発するのだ。寒気は疼痛をもって人に迫ってきた。警戒所でとった煖炉の温度は、扉から出て二分間も歩かないうちに、黒・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・負傷をして、脚や手を切断され、或は死んで行く兵卒を眼のあたりに目撃しつゝ常に内地のことを思い、交代兵が来て、帰還し得る日が来るのを待っていた。 交代兵は来た。それは、丁度、彼等が去年派遣されてやって来たのと同じ時分だった。四年兵と、三年・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・七月一日、病院の組織がかわり職員も全部交代するとかで、患者もみんな追い出されるような始末であった。私は兄貴と、それから兄貴の知人である北芳四郎という洋服屋と二人で相談してきめて呉れた、千葉県船橋の土地へ移された。終日籐椅子に寝そべり、朝夕軽・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・も、ことしの八月に、この海岸線の各部落を縫って走破する駅伝競走というものがあって、この郡の青年たちが大勢参加し、このAの郵便局も、その競争の中継所という事になり、青森を出発した選手が、ここで次の選手と交代になるのだそうで、午前十時少し過ぎ、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・彼が生れ落ちるとすぐ母はそれと交代に死んだのである。いまだかつて母を思ってみたことさえなかったのである。いよいよ嘘が上手になった。黄村のところへ教えを受けに来ている二三の書生たちに手紙の代筆をしてやった。親元へ送金を願う手紙を最も得意として・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫