・・・それを露柴はずっと前から、家業はほとんど人任せにしたなり、自分は山谷の露路の奥に、句と書と篆刻とを楽しんでいた。だから露柴には我々にない、どこかいなせな風格があった。下町気質よりは伝法な、山の手には勿論縁の遠い、――云わば河岸の鮪の鮨と、一・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・……彼はいわゆる作家風々主義で、万事がお他人任せといった顔はしているけれど、事実はそうなのだから。 私は彼から二十円という金を借りている。彼は今度の長編を地方の新聞へ書いている間、山の温泉に半年ほども引っこんでいた。そして二カ月ほど前に・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・況んや自分の産みたる子供に於てをや。人任せの不可なるは言わずして明白なる可し。世間の婦人或は此道理を知らず、多くの子を持ちながら其着物の綻を縫うは面倒なり、其食事の世話は煩わしとて之を下女の手に託し、自分は友達の附合、物見遊山などに耽りて、・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫