・・・目鼻立は十人並……と言うが人間並で、色が赤黒く、いかにも壮健そうで、口許のしまったは可いが、その唇の少し尖った処が、化損った狐のようで、しかし不気味でなくて愛嬌がある。手織縞のごつごつした布子に、よれよれの半襟で、唐縮緬の帯を不状に鳩胸に高・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・「こんな、人間並でない自分をも、よく育てて、かわいがってくだすったご恩を忘れてはならない。」と、娘は、老夫婦のやさしい心に感じて、大きな黒い瞳をうるませたこともあります。 この話は遠くの村まで響きました。遠方の船乗りや、また漁師は、・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・「こんな人間並でない自分をも、よく育て可愛がって下すったご恩を忘れてはならない」と、娘はやさしい心に感じて、大きな黒い瞳をうるませたこともあります。 この話は遠くの村まで響きました。遠方の船乗りやまた、漁師は、神様にあがった絵を描い・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・いわば骨董が好きになって、やっと人間並になったので、豚だの牛だのは骨董を捻くった例を見せていない。骨董を捻くり出すのは趣味性が長じて来たのである。それからまた骨董は証拠物件である。で、学者も学問の種類によっては、学問が深くなれば是非骨董の世・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・もしこの事がなかったなら、わたくしは今日のように、老に至るまで閑文字を弄ぶが如き遊惰の身とはならず、一家の主人ともなり親ともなって、人間並の一生涯を送ることができたのかも知れない。 わたくしが十六の年の暮、といえば、丁度日清戦役の最中で・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・文学者の世界は当時の権柄なる者にとってもはや自身の啓蒙のためにも、支配のためにも必要がなくなっており、人間並に扱われなかった。作家は作家としての軽侮をもってこれに報いたのではあったが、経済・政治生活からの閉め出しは、客観的には紅葉を再び魯文・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫