・・・そんなら、今後、医者は、何うなるべきであるか。もし、これを国有としたならばと思われるのであります。慈善病院が、三つや四つできたゞけでは、無産階級が救われるとは考えられない。 その日、その日、この社会には、どれ程、貧困のために、悩み、苦し・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・いちいち例をあげてその相違をあげると面白いのだが、私はいまこの原稿を旅先きで書いていて手元に一冊も文献がないので、それは今後連続的に発表するこの文学的大阪論の何回目かで書くことにして、ここでは簡単に気づいたことだけ言うことにする。 宇野・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・私はただ今後書いて行くだろう小説の可能性に関しては、一行の虚構も毛嫌いする日本の伝統的小説とはっきり訣別する必要があると思うのだ。日本の伝統的小説にもいいところがあり、新しい外国の文学にもいいところがあり、二者撰一という背水の陣は不要だとい・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・とある書窓の奥にはまた、あわれ今後の半生をかけて、一大哲理の研究に身を投じ尽さんものと、世故の煩を将って塵塚のただ中へ投げ捨てたる人あり。その人は誰なるらん。荻の上風、桐は枝ばかりになりぬ。明日は誰が身の。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で「ヤ、初めて……お書きになった物は常に拝見していますので……今後御懇意に……」 岡本は唯だ「どうかお心安く」と言ったぎり黙って了った。そして椅子に倚った。「サアその先を……・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ げにしかり、わが加藤男爵は何を今後になすべきや。彼はともかくも、衣食において窮するところなし。彼には男爵中の最も貧しき財産ながらも、なおかつ財はこれあり、狂的男爵の露命をつなぐ上において、なんのコマルところはないのであるが、彼は何事も・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・かような宗教経験の特異な事実は、客観的には否定も、肯定もできない。今後の心霊学的研究の謙遜な課題として残しておくよりない。しかし日蓮という一個の性格の伝記的な風貌の特色としては興趣わくが如きものである。 八 身延の隠棲・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・此地の温泉は今春以来かく大きなる旅館なども設けらるるようなりしにて、箱館と相関聯して今後とも盛衰すべき好位置に在り。眺望のこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜に沿いあるいは田圃を過ぐる路の興も無きにはあらず、空気殊・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・なんとなれば、これがためには、すべての疾病をふせぎ、すべての災禍をさけるべき完全な注意と方法と設備とを要するからである。今後、幾百年かの星霜をへて、文明はますます進歩し、物質的には公衆衛生の知識がいよいよ発達し、一切の公共の設備が安固なのは・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・――裁判長が判決を下す前に、「被告は今後どういう考か? これからも共産主義を信奉して運動を続けて行く積りか、それとも改心して、このような誤った運動をやめようと思っているか?」と訊く。それによって、判決が決まるわけである。そこへ来ると、傍聴に・・・ 小林多喜二 「母たち」
出典:青空文庫