・・・よりほかの語が出て来なかったのである、正直なる余は苟且にも豪傑など云う、一種の曲者と間違らるるを恐れて、ここにゆっくり弁解しておくなり、万一余を豪傑だなどと買被って失敬な挙動あるにおいては七生まで祟るかも知れない、 忘月忘日 人間万事漱・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 苟且にも、小説に書く場合には、私自身のことを書いて居ても、決して、私心を以て描くのではない。心持それ自身を、或圏境に於ける、或性格の二十何歳の女は、斯う思った、と、自ら観、書くのだ。本能が観察せずには居ないのですから、と云っても、其は・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 勿論虎屋と云っても、別に特別な悪行をしかけたこともなかったが、そう云う名の苟且にもある者に対しての心持は、決して朗らかには行かない。 それがフランクに、友人として、種々のことを話したり、「随分ぼろ家ですからね」と、仮令金高・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫