・・・ついては身元保証金として、金六百円を納められたい。――活版刷りの美麗な辞令だった。 そして、待機していると、世間は広いものだ。一生妻子を養うことが出来れば、六百円の保証金も安いものだと胸算用してか、大阪、京都、神戸をはじめ、東は水戸から・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それについて保証人がいるのだが、自分には両親もきょうだいも身寄りもない、ついては保証人になって貰えないだろうかと言うことだった。私はすぐ承知したが、それから二月たたぬ内に横堀は店の金を持ち逃げした。孤独の寂しさを慰めるために新世界とはつい鼻・・・ 織田作之助 「世相」
一 行一が大学へ残るべきか、それとも就職すべきか迷っていたとき、彼に研究を続けてゆく願いと、生活の保証と、その二つが不充分ながら叶えられる位置を与えてくれたのは、彼の師事していた教授であった。その教授は自分・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・「全世界の人悉くこの願を有ていないでも宜しい、僕独りこの願を追います、僕がこの願を追うたが為めにその為めに強盗罪を犯すに至ても僕は悔いない、殺人、放火、何でも関いません、もし鬼ありて僕に保証するに、爾の妻を与えよ我これを姦せん爾の子を与・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・そしてこれを保証することは国家と男性との義務でなくてはならぬ。 最後にこの天理の自然、生命の法則という視点から、最初に立ちかえって、夫婦生活というものには無理が含まれていることも、英知をもって認めておかなくてはならぬ。この無理をどう扱う・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・この身に親しいインティメイトな感じが倫理学への愛と同情と研究の恒心とを保証するものなのである。 二 倫理学の入門 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ だが、数日の後、おやじは、別の支那人をつれてきた。保証金を取った。そして、倉庫に休んでいる品々を別の橇に積みこませた。 四 黒竜江の結氷が轟音とともに破れ、氷塊は、濁流に押し流されて動きだす春がきた。 ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・而して、敵手との闘争に於ける一切の偶発事に対して独占団体の成功を保証するものは、独り植民地あるのみである。」だから、資本家は、「植民地の征服を熱望する。」そうして、「金融資本と、それに相応する国際政策とは、結局世界の経済的政治的分割のための・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・山田さんもそれは保証していらっしゃいました。」「僕だって保証いたします。」 その、あてにならない保証人は、その翌々日、結納の品々を白木の台に載せて、小坂氏の家へ、おとどけしなければならなくなったのである。 正午に、おいで下さ・・・ 太宰治 「佳日」
・・・飼い主でさえ、噛みつかれぬとは保証できがたい猛獣を、その猛獣を、放し飼いにして、往来をうろうろ徘徊させておくとは、どんなものであろうか。昨年の晩秋、私の友人が、ついにこれの被害を受けた。いたましい犠牲者である。友人の話によると、友人は何もせ・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫