・・・ 温泉場のことゆえ病人も多く、はやりそうな気配が見えたので、一回二十銭の料金を三十銭に値上げしたが、それでも結構患者が集まった。「――どうです? 古座谷さん、この繁昌りようは、実際わしの思いつきには……」 さすがに驚きはしたが、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ しかし『通鑑綱目』は二人がそれから半時間あまりも口を揃えて番頭を攻めつけたにかかわらず、結局わずか五拾銭値上げをされたに過ぎなかった。「これっぱかりじゃ、どうにもならない。」「これじゃ新宿へ行っても駄目だ。」 質屋の店を出・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・婦人労働者が平等の賃銀と母性保護を求め、女子学生が文部省のひどい月謝値上げに反対していて、男子学生とともに、働きながら学べる大学を求めていることは、この新帰朝者に知られていません。日本のわたしたちは、憲法の抽象的な人権擁護の文句を、実質のあ・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・月謝の値上げはどうだろう。PTAの物品交換会で、数十万円の禁制品が没収されたという新聞記事は、心ある親たちと教師に、どんな感銘を与えたろう。 二 日本の文化一般について、そもそもわたしたちはどんな現実的な観・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・それを使って安心していたら、去年の煙草値上げ前後から紙質が急に悪くなった。元のと比べて見ると、枠の横もつまり、余白もせまくなり、判全体がほんのすこしずつ縮んでいる。私はいやな気がした。盛文堂では、この頃売込んだので質を悪くしたと思った。その・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・丸公が値上げになったために一般家計が窮迫しはじめたのも昨年中のことです。 寿産院にあずけられた子供が正当な出生の子供でないということが、まるで子供が殺されても仕方がなかったというようにあげられています。しかしあの中には正当な結婚から生れ・・・ 宮本百合子 「“生れた権利”をうばうな」
・・・ 労働法が出来たけれども、国鉄従業員が尤もな待遇改善を求めると、当局はそれを拒むことの出来ない代りに、忽ち、運賃値上げをして、人民の負担に転化する。逓信院の値上げにしても同様である。何十万人という従業員は、やっといくらか給料がよくなった・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・極めて当然な賃銀値上げ、待遇改善を要求しても直ぐ警察だ。学生や職場の大衆が知識欲をみたすための罪のないサークルや読書会をもっても二十九日、又それをむしかえしての拘留を食う。 留置場に長くいればいるほど、権力の手のこんだ専暴と、人民は無権・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・あらゆる形で大衆課税がとりたてられ、たとえ所得税の税率がいくらか引き下げられたとしても、汽車賃の二倍半までの増額、公定価格の七割ほどの引上げ、通信料の四倍、煙草の二割から八割の値上げは、あらゆる家計を破綻させている。とくに本年度の悪質大衆課・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・生活必需品の値上げについて賃上げ要求をして七百円から千五百円になり、千八百円ベースの今日、物価はぐっと高くなり公定価も上って、とても千八百円ベースではやって行けなくなっている。つつましく暮して四人家族で五千六百円ばかりかかる現実となった。大・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫