・・・この貴族先生の顔色を見るに、そうは受け取れない。世界を一周する。誰一人それを望まないものはない。しかしどんな条件があるのだろうと、誰も猶予する。「僕がしましょう。」興奮の余りに、上わ調子になった声で、チルナウエルが叫んだ。「その日数・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・一種の病気かもしれんよ。先生のはただ、あくがれるというばかりなのだからね。美しいと思う、ただそれだけなのだ。我々なら、そういう時には、すぐ本能の力が首を出してきて、ただ、あくがれるくらいではどうしても満足ができんがね」 「そうとも、生理・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・それをどう云うものだか、ショッフヨオルの先生が十二の所へそっと廻した。なんだか面倒になりそうだから、おれは十五に相当する金をやった。部屋に這入って見ると、机の上に鹿の角や花束が載っていて、その傍に脱して置いて出た古襟があった。窓を開けて、襟・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・しかしもしある学級の進歩が平均以下であるという場合には、悪い学年だというより、むしろ先生が悪いと云った方がいい。大抵の場合に教師は必要な事項はよく理解もし、また教材として自由にこなすだけの力はある。しかしそれを面白くする力がない。これがほと・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・「先生、おひろもどうぞひとつ」森さんは道太に言っていた。 森さんは去年細君に逝かれて、最近また十八になる長子と訣れたので、自身劇場なぞへ顔を出すのを憚かっていた。 森さんはまたお茶人で、東京の富豪や、京都の宗匠なぞに交遊があった・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・有事弟子服其労、有酒食先生饌、曾以是為孝乎。行儀の好いのが孝ではない。また曰うた、今之孝者是謂能養、至犬馬皆能有養、不敬何以別乎。体ばかり大事にするが孝ではない。孝の字を忠に代えて見るがいい。玉体ばかり大切する者が真の忠臣であろうか。もし玉・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・学問は好きだったから出来る方の組で、副級長などもやったことがあるが、何しろ欠席が多かったから、十分には勤まらない。先生はどの先生も私を可愛がってくれたし、欠席がつづくと私の家へ訪ねてきてくれたりした。しかし私には同級生の意地悪共が怖い。意地・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・ 明治四十二三年の頃鴎外先生は学生時代のむかしを追回せられてヰタセクスアリス及び雁と題する小説二篇を草せられた。雁の篇中に現れ来る人物と其背景とは明治十五六年代のものであろう。先生の大学を卒業せられたのは明治十七年であったので、即春の家・・・ 永井荷風 「上野」
木の葉の間から高い窓が見えて、その窓の隅からケーベル先生の頭が見えた。傍から濃い藍色の煙が立った。先生は煙草を呑んでいるなと余は安倍君に云った。 この前ここを通ったのはいつだか忘れてしまったが、今日見るとわずかの間にもうだいぶ様子・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・村では小学校の先生程の学者はない、私は先生の学校に入ったのである。然るに幸か不幸か私は重いチブスに罹って一年程学校を休んだ。その中、追々世の中のことも分かるようになったので、私は師範学校をやめて専門学校に入った。専門学校が第四高等中学校と改・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
出典:青空文庫