・・・と沈んだ、燻った、その癖、師走空に澄透って、蒼白い陰気な灯の前を、ちらりちらりと冷たい魂がさまよう姿で、耄碌頭布の皺から、押立てた古服の襟許から、汚れた襟巻の襞ひだの中から、朦朧と顕れて、揺れる火影に入乱れる処を、ブンブンと唸って来て、大路・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 跫音が入り乱れる。ばたばたと廊下へ続くと、洗面所の方へ落ち合ったらしい。ちょろちょろと水の音がまた響き出した。男の声も交じって聞こえる。それが止むと、お米が襖から円い顔を出して、「どうぞ、お風呂へ。」「大丈夫か。」「ほほほ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・四つの足が一組になっていろいろ入り乱れるのを不思議に思って見守るのであった。横浜から乗って来た英人のCがオランダの女優のいちばん若く美しいのと踊っていた。なんとなく不格好に、しかし非常に熱心に踊っているのがおかしいようでもあったが、ハイカラ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・仮にnが一千万、mが百とすると十億本の線が空間に入乱れる。これらの線が一度はどこかの郵便局へ束になって集められ、そこで選り分けられて、幾筋かの鉄道線路に流れ込み、それが途中で次々に分派して国の隅々まで拡がってゆく。中には遠く大洋を越えて西洋・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・けれども、だんだん子供が帰って来、入り乱れる足音、馳ける廊下の轟きが増し、長い休の中頃になろうものなら、何と云おうか、学校中はまるで悦ぶ子供で満ち溢れてしまう。 四十分か五十分の日中のお休みは、何といいものであったろう! 鐘が鳴るのに、・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
出典:青空文庫