・・・二十年前だったら、設計も立て札も当然自明的であって、制札を無視するのが没公徳的で悪いのであった。 自分の郷里では、今は知らず二十年も以前は、婚礼の三々九度の杯をあげている座敷へ、だれでもかまわず、ドヤドヤと上がり込んで、片手には泥だらけ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ そもそも本書全面の立言は、人生戸外の公徳を主として、家内私徳の事には深く論及するところを見ず。然るに鄙見はまったくこれに反し、人間の徳行を公私の二様に区別して、戸外公徳の本源を家内の私徳に求め、またその私徳の発生は夫婦の倫理に原因する・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・一身の私徳を後にして、交際上の公徳を先にするものの如し。即ち家に居るの徳義よりも、世に処するの徳義を専らにするものの如し。この一点において我輩が見る所を異にすると申すその次第は、敢えて論者の道徳論を非難するにはあらざれども、前後緩急の別につ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・すなわち哲学の私情は立国の公道にして、この公道公徳の公認せらるるは啻に一国において然るのみならず、その国中に幾多の小区域あるときは、毎区必ず特色の利害に制せられ、外に対するの私を以て内のためにするの公道と認めざるはなし。たとえば西洋各国相対・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・社会の公徳というものが少しも行われて居らぬ。西洋の話を聞くと公園の真中に草花がつくってある。それには垣も囲いもなんにもない。多くの人はその傍を散歩して居る。それでもその花一つ取る者は仮にもない。どんな子供でも決して取るなんという事はないそう・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ 今日男女の青年たちの或るものが、形式ばった挨拶だけは上手で、一向に公徳心も、若者らしいやさしさもない心でいるのは、形式一点ばりであった軍事的教育の害悪です。 女の子だからと云って、女のくせに、と禁止ばかり多い育てかたをする時代・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・配給を公平にせよ、横流しをするな、闇をとりしまれ、公徳心を発揮せよ、と云われたのですが、そのききめは、どの位のものでしたろう。 これまで、日本のすべての人は、食べるということは、自分の力で、云わばめいめいの分相当に解決してゆくべき「・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・或る人は真の芸術を理解させるようにしなければならぬという対策を提案し、或る人はレビュー劇場が商売とは云いながらすこしは宣伝に公徳心を加味して欲しいと要求しておられる。 これ等の記事を読んで私は、教育家が或る程度固定した頭で現実に対する処・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫