・・・ 鼾は公演場の休憩室の隅にあるソファから聴えていた。 いつ、どこから、どう潜り込んだのか、そのソファの上で、眠っている人間がいるのだ。 宿なしにしては気の利いた寝床だ。洒落ている。洒落ているといえば、宿なしとは見えぬくらい、洒落・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・昭和六年三月下旬、七日間の公演であった。青年、高須隆哉は、三日目に見に行った。幕があく。オリガ、マーシャ、イリーナの三人の姉妹が、舞台にいる。やがて、オリガの独白がはじまる。はじめ低くて、聞えなかった。青年は、暗い観客席の一隅で、耳をすまし・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・が、無事に千回以上の公演をつづけたが、一九三六年、解散させられた。チューリッヒで、「公安妨害」の口実で公演禁止されたのをはじめとして、ナチス外交官が出さきの外国でまでエリカの活動を妨害して、とうとう、それを解散させてしまったのであった。この・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・余興は講演とは別に許可をうけ、どれも皆数度公演ずみのものだのに「公安を害す」と禁止した。 現に地方などでは、「働く婦人」を一冊とるだけにさえうるさく妨害しているのであった。「……指導は誰がやっているんですか」 やがて清水が煙草に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・――原泉夫妻[自注18]は四谷の大木戸ハウスというアパートで細君はトムさん[自注19]の新協劇団第一回公演では「夜明け前」に巡礼をやり、今やっているゴーゴリの芝居では何をやっているか、旦那さんの方はきっと徹夜して小説かいてるでしょう。今夜見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・をはじめて公演したとしますね。 セミョン・ニコラエヴィッチが説明した。 ――我々は十分注意してヤマのおきどころ、心持の変化――恐怖、よろこび、好奇心、滑稽などを、教育的な筋の上へ按配するのです。しかし、実際に当って見なければ、どこで・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・日本プロレタリア文化連盟に加盟する十三の文化団体は、講演会、展覧会、芝居の公演と精力的に参加した。日本では工場で働く婦人の数だけでも男の労働者の四割八分を占めている。そんなに大勢いる勤労婦人のための特別な催しを、この挨拶週間のプログラムから・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
出典:青空文庫