・・・この柳は北海道にはあるが内地ではここだけに限られた特産種で春の若芽が真赤な色をして美しいそうである。 夕飯の膳には名物の岩魚や珍しい蕈が運ばれて来た。宿の裏の瀦水池で飼ってある鰻の蒲焼も出た。ここでしばらく飼うと脂気が抜けてしまうそうで・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・天然物保存地帯として少なくもこの大陸内地の大部分を万国協定で指定してほしいと思うのである。 獅子のいる草原の中にどうも地震による断層らしく見えるものが写っている。あとで地震学者に聞いてみると、あのタンガニイカ湖付近には実際大地震による断・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・へえ、さようでござえんすと申しあげると、晴二郎は内地で死んだんだから、金は下げる訳にいかん、帰れ帰れと恁う云うんでしょう。 私も為方ないから、へえ然ようでござえんすか、実は然云うお達があったもんですから出ましたような訳でと、然う云うとね・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・カステラや鴨南蛮が長崎を経て内地に進み入り、遂に渾然たる日本的のものになったと同一の実例であろう。 自分はいつも人力車と牛鍋とを、明治時代が西洋から輸入して作ったものの中で一番成功したものと信じている。敢て時間の経過が今日の吾人をして人・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・条約改正、内地雑居も僅に数箇月の内に在り、尚お此まゝにして国の体面を維持せんとするか、其厚顔唯驚く可きのみ。抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、男女の関係その趣を異にすること斯の如くにして、其極日本に於ては青天白日一妻数妾、妻妾同居漸く慣れて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・先生は此有様を見て恰も強有力なる味方を得たるの思いして、愉快自から禁ずる能わざると同時に、又一方を顧みれば新条約実施の期限は本年七月と定まり、僅々一年の後には外国人も内地に雑居して日本人と郷党隣人の交際を為すに至る可しと言う。従来の儘なる我・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・「おれは内地の農林学校の助手だよ、だから標本を集めに来たんだい。」私はだんだん雲の消えて青ぞらの出て来る空を見ながら、威張ってそう云いましたらもうその風は海の青い暗い波の上に行っていていまの返事も聞かないようあとからあとから別の風が来て・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・――木浦なんぞは入口だから、大して内地とは違うまい」 一太はうっかりした風で窓から外を見ていたが珍しがって急に大声を出した。「ここんち竹藪があるんだねえ、おっかちゃん、御覧ほら、向うにもあるよ。この辺竹藪が多いんだね」「ああ」・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 世界地図のことは遅れていますが、この頃は内地ののみならず学校なりなんなりの証明がなければ買えないことになっているらしくて珍らしいことです。何とかして買う様にしましょう。尚また手間取りますが、紙屋の松屋の表に紙がぶら下っていて、「大学ノ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そのころはまだ純粋の武蔵野で、奥州街道はわずかに隅田川の辺を沿うてあッたので、なかなか通常の者でただいまの九段あたりの内地へ足を踏み込んだ人はなかッたが、そのすこし前の戦争の時にはこの高処へも陣が張られたと見えて、今この二人がその辺へ来かか・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫