・・・何人もが世界平等の苦痛を共に嘗め、共に味わなくてはならないように、各人の生活内容が変ってきた時、其処から初めて新しい感激が湧き、本当の愛が生れてくるだろう。然し私は、社会改造の事実は各人の信念にその根底を置くものだと考えている。そうして此の・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・毎日財布を調べて支出の内容をきびしくきくのは勿論である。そんな風に厳重にしたので、まず大丈夫だと思っていたところ、ある日、あの人の留守中見知らぬ人が訪ねて来て、いきなり僕八木沢ですと言い、あと何にも言わずもじもじしているので、薄気味悪くなり・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・らうということもほんとうにできなくなるということや、そして母親も寝てしまってあとはただ自分一人が荒涼とした夜の時間のなかへ取り残されるということや、そしてもしその時間の真中でこのえたいの知れない不安の内容が実現するようなことがあればもはや自・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・意欲そのものの善悪、いかに意欲するかでなく何を意欲するかの実質内容につき道徳的判断を下したいのはまたわれわれの今ひとつのやみ難き要請である。この要求からカントの倫理学を修正しようとするものが最近いわゆる実質的価値の倫理学である。『倫理学にお・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 勿論、彼等は、もう、白布の袋の外観によって、内容を判断し得るほど、慰問袋には馴れていた。彼等は、あまりにふくらんだ、あまりに嵩ばったやつを好まなかった。そういう嵩ばったやつには、仕様もないものがつめこまれているのにきまっていた。 ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ それから、とうさんが生活を変えると言ったら、事あれかしの新聞記者なぞに大袈裟に書き立てられても迷惑しますから、しばらくこの手紙の内容はおまえたちだけで承知していてください。友人にも世間の人たちにもおりを見てぽつぽつ知らせるつもりです。・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・自己というその内容は何と何とだ。自己の生を追うた行止りはどうなるのだ。ことに困るのは、知識で納得の行く自己道徳というものが、実はどうしてもまだ崇高荘厳というような仰ぎ見られる感情を私の心に催起しない。陳い習慣の抜殻かも知れないが、普通道徳を・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ 更に之をその内容より觀察するに、堯典には帝が羲・和二氏に命じて天文を觀測せしめ民に暦を頒ちしをいひ、羲仲を嵎夷に居らしめ、星鳥の中するを以て春分を定め、羲叔を南交にやりて星火の中するを以て夏至を定め、和仲を昧谷におきて星虚の中するを以・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・これは、なんとしても黄村先生に教えてあげなければならぬ、とあの談話筆記をしている時には、あんなに先生のお話の内容を冷笑し、主題の山椒魚なる動物にもてんで無関心、声をふるわせて語る先生のお顔を薄気味わるがったりなど失礼な感情をさえ抱いていた癖・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・そして彼の仕事の内容は分らないまでも、それが非常に重要なものであって、それを仕遂げた彼が非常な優れた頭脳の所有者である事を認め信じている人はかなりに多数である。そうして彼の仕事のみならず、彼の「人」について特別な興味を抱いていて、その面影を・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫