・・・それを聞いていると子供の自分の眼前には山ふところに落ち葉の散り敷いた冬木立ちのあき地に踊りの輪を描いて踊っているたぬきどもの姿がありあり見えるような気がして、滑稽なようで物すごいような、なんとも形容のできない夢幻的な気持ちでいっぱいになるの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 災後、新に開かれたセメント敷の大道は、黒亀橋から冬木町を貫き、仙台堀に沿うて走る福砂通と称するもの。また清洲橋から東に向い、小名木川と並行して中川を渡る清砂通と称するもの。この二条の新道が深川の町を西から東へと走っている。また南北に通・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・「霜の上に冬木の影をうす黒くうつして」と詠めるがごとき、「もみぢ」の上に「赤き」という形容語を冠せ、「影」の下に「うす黒き」という形容語を添えて、ことさらに重複せしめたるは、霜の白さを強く現さんとの工夫なり。その成功はともかくも、その著眼の・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫